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花コラム

花コラム第98回:ネリネ~見た目が9割

プレミアムフラワーの花コラム

第98回:ネリネ~見た目が9割

2025.11.1

 人と人とのコミュニケーションにおいては、言語による情報が7%、聴覚による情報が38%、そして視覚情報が55%の割合で影響を与える―。心理学の『メラビアンの法則』によると、私たちは非言語情報に大きく影響されます。視覚情報の影響はもっと大きく、「見た目が9割」という言葉もあります。
 人は見た目で判断することが多いという法則ですが、花は話したりはしないので、なおさら見た目で評価されることになります。その「見た目」で、ネリネは数奇な運命をたどりました。

彼岸花に似ていることが災い

 ネリネは秋から冬にかけて、白や赤、オレンジなどの花を咲かせる球根植物です。原産地は南アフリカ、ヨーロッパで品種改良が進み、日本へは大正時代初期に渡来しました。
 小さなユリの花が集まって一つの花になったような形をしており、おしべとめしべが外に飛び出した様子は彼岸花に似ています。このことが、ネリネに災いしました。

縁起の悪い花?

 ネリネは当初は見た目で彼岸花=写真=の一種と考えられていました。彼岸花は前々回のコラムでご紹介したように、墓場に咲く花として忌み嫌われることがあります。その連想からネリネも縁起の悪い花と思われて敬遠され、先の戦争中には多くの品種が途絶えてしまいました。
 二つの花は同じヒガンバナ科ですが、彼岸花はヒガンバナ属でネリネはネリネ属。彼岸花には毒がありますが、ネリネにはありません。開花時期や葉のつき方なども違い、この二つは別の花です。しかし、似ているということだけで、ネリネには彼岸花の悪いイメージが付いて回ることになったのです。

妖精のような花

 翻って、ヨーロッパではネリネのイメージは全く異なりました。花の名の由来はギリシャ神話に登場する美しい水の妖精「ネーレーイス」。妖精のように美しい花ということです。花びらは光沢があり、日差しを受けるとダイアモンドのようにキラキラと輝く姿から「ダイヤモンドリリー」とも呼ばれます。花言葉も「輝き」「華やか」「かわいい」「幸せな思い出」など明るいイメージのもので、ウェディングブーケにも使われる人気の花です。

評価は一変した

 日本ではネリネは絶滅する恐れもありましたが、広瀬巨海(ひろせ・おおみ)氏ら熱心な園芸家らの努力で球根は引き継がれ、花のイメージは次第に良くなっていきます。そして今では、ネリネの評価は一変しました。

 私が愛読している『趣味の園芸』は、2023年8月号で「輝く花 ネリネ」を特集しました=写真=。「繊細なラメをちりばめたようなきらめく花びらが美しい」などと紹介。「ネリネのいいね!」と題して、「美しさが長もち」「土も肥料も少量でOK」「植えっぱなしで育つ」「20年以上長生き」「病気や害虫に強い」などと良いところを列挙し、美しいだけでなく、育てやすいことも強調しています。

「見る目」と「見た目」

 ネリネそのものは変わらないのに、時の流れとともに評価はゴロっと変わりました。海外での高評価に影響されて、「よくよく見れば美しい花だ」と気付いたということなのでしょうか。それに、彼岸花とは別の花だという認識が広がったこともあるでしょう。
 人々の「見る目」が変われば、同じ「見た目」の花のイメージも変わっていきます。花だけでなく、人の評価にも通じることかもしれません。

※参考図書
「趣味の園芸」2023年8月号(編集:日本放送協会、発行:NHK出版)
「人は見た目が9割」(著者:竹内一郎、出版:新潮社)

※参考サイト
「BEGINNERS GARDEN」
「SPIBRE」
「春夏秋冬「AGSコラム ネリネの基礎知識」
「あわひなる 花屋全史 手稿」
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コラムライターのご紹介

福田徹(ふくだ とおる)

元読売新聞大阪本社編集委員。社会部記者、ドイツなどの海外特派員、読売テレビ「読売新聞ニュース」解説者、新聞を教育に活用するNIE(Newspaper in Education)学会理事などを歴任、武庫川女子大学広報室長、立命館大学講師などを勤めました。
花の紀行文を手掛けたのをきっかけに花への興味が沸き、花の名所を訪れたり、写真を撮ったりするのが趣味になりました。月ごとに旬の花を取り上げ、花にまつわる話、心安らぐ花の写真などをお届けします。

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花コラム第97回:イヌサフラン~可愛い犬が悪者にされた

プレミアムフラワーの花コラム

第97回:イヌサフラン~可愛い犬が悪者にされた

2025.10.1

 10月に入ると、ようやく秋の気配が漂い、道端や花壇を彩る花は鮮烈な色から落ち着いた色へと変わりつつあります。そんな秋の花の中で、少し変わった花姿をしているのがイヌサフランです。
 春につけた葉が夏に枯れ落ちた後、秋になって地表から突き出た花径に紫やピンク、白色の可愛い花を咲かせます。まるで花径を地面に突き立てたようです。

変わっている花姿、花言葉、名前

 花姿だけでなく、「私の最良の日々は過ぎ去った」という花言葉も変わっています。この由来については、コラムの第37回で書きましたが、この花には変わっていることがもう一つあります。イヌサフランという名前です。

 イヌサフラン科多年草のイヌサフラン=写真左側=はサフランの名前が付いていますが、アヤメ科のサフラン=写真右側=とは全く別の植物です。花の形はサフランに似ていますが、サフランのように香辛料にはなりません。ならないどころか、球根にはコルヒチンという猛毒物質が含まれています。コルヒチンは痛風の薬にもなりますが、誤食すると下痢や呼吸困難を発症します。先月には、岡山県でイヌサフランの球根をタマネギと間違えて食べた男性がなくなっています。

犬が悪いもののたとえになった

 イヌサフランはサフランと区別するために、頭に「イヌ」が付けられました。イヌダテ、イヌマキ、イヌザンショウなどのように、「イヌ」が植物の名前の接頭語になると、元の品種より形や材質が劣り、役に立たないという意味になります。
 「イヌ」が悪い意味で使われるのは植物に限りません。「犬死(いぬじに)」は役に立たない死に方、「犬畜生」は不道徳な人を罵る言葉、「負け犬」は競争に敗れた意気地のない人、「犬侍」は武士道をわきまえない侍……。犬はどうして、こんなに悪いたとえにされるのでしょうか?

「犬は不潔だ。犬は嫌だ」

 太宰治の小説『畜犬談』に次のような記述があります。《ただひたすらに飼主の顔色をうかがい、阿諛追従(あゆついしょう)てんとしてはじず、ぶたれても、きゃんといい尻尾まいて閉口して見せて、家人を笑わせ、その精神の卑劣、醜怪、犬畜生とはよくもいった。(中略)思えば、思うほど、犬は不潔だ。犬はいやだ。》
  ※阿諛追従=こびへつらうこと
  ※写真は青空文庫のホームページから転載

犬は人間の良きパートナー

 犬は何千年もの昔から、狩猟の手伝いをしたり番犬になったりして人間と共生してきました。そして今は空前のペットブーム。外を歩けば、必ずと言っていいほど犬連れの人とすれ違います。私も犬は大好きで、可愛い愛犬にどれだけ慰められているか分かりません。
 ですから、犬を激しく罵倒する太宰の気持ちは分かりません。「イヌ」が悪い意味の接頭語になることも解せません。時の流れとともに、人間と犬との関係が大きく変わってきたということなのでしょう。

20余年前までは野良犬が徘徊

 太宰が『畜犬談』を著したのは1939年。当時は野良犬に噛まれて、狂犬病でなくなる人は数多くいました。狂犬病の予防注射などを義務付けた狂犬病予防法が公布されたのは1950年。この頃になっても、室内で犬を飼う人は少なく、野良犬は街中を徘徊していました。保健所が野良犬の保護に乗り出し、野良犬がほぼいなくなったのは、この20数年のことです。

鑑賞用の花の名前には出来ない

 イヌサフランはヨーロッパから北アフリカが原産で、日本へは明治時代の初期に渡来しました。この頃は犬のイメージは余り良くなかったことから、「イヌ」が悪い意味で付けられたと思われます。同じ花がヨーロッパで “裸の貴婦人”と呼ばれているのとは大違いです。
 イヌサフランは正式な和名ですが、園芸用としては学名「Colchicum autumnale」をもとにした「コルチカム」の名前で流通しています。さすがに「イヌサフラン」を鑑賞用の花の名前にするのは憚られたのでしょう。

※参考図書
「畜犬談 伊馬鵜平君に与へる」(青空文庫)
「走れメロス」(著者:太宰治、発行所:ポプラ社)
「植物による食中毒と皮膚のかぶれ」(著者:指田豊と中山秀夫、発行所:少年写真新聞社)

※参考サイト
「BOTANICA」
「GARDEN STORY」
「読売新聞オンライン2025/9/12 イヌサフランを食べ男性死亡」
「農林水産省 狂犬病予防法」
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福田徹(ふくだ とおる)

元読売新聞大阪本社編集委員。社会部記者、ドイツなどの海外特派員、読売テレビ「読売新聞ニュース」解説者、新聞を教育に活用するNIE(Newspaper in Education)学会理事などを歴任、武庫川女子大学広報室長、立命館大学講師などを勤めました。
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花コラム第96回:悪女か仏さまか~彼岸花は両極端なイメージを併せ持つ

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第96回:悪女か仏さまか~彼岸花は両極端なイメージを併せ持つ

2025.09.1

 各地で観測史上最高の気温を記録した、うだるような8月が終わりました。「暑さ寒さも彼岸まで」。例年なら、お彼岸の頃に道端や土手、あぜ道などに咲く彼岸花(ヒガンバナ)を見て「秋めいてきたな」と感じるものですが、今年は汗をかきながら9月20日の彼岸入りを迎えることになるかもしれません。

稀有な形の花

 彼岸花はヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草で、曼珠沙華(まんじゅしゃげ、まんじゅしゃか)とも呼ばれます。これは、「赤い花」を意味するサンスクリット語に由来します。
 花は稀有な形をしています。おしべとめしべは花びらの中にあるのが一般的ですが、彼岸花のおしべとめしべは花びらより大きく、外側へ大きく突き出ています。花が咲いているときは葉がなく、葉は花が枯れた後に出てきます。花と葉を同時に見られないことから、「葉見ず花見ず」と言われます。

悪女の微笑みのようだ

 彼岸花をコラムのテーマにしようかと思ったことが何度かあるのですが、ためらってきました。余り良いイメージがわかなかったからです。作家の太田治子も随筆で書いています。『彼岸花は幼い頃から私にとって苦手な花だった。何よりもまず、あのぴんぴんとそり返った赤い花びらがとても恐く感じられた。悪女の微笑のようだと思った。』

毒を持つ花

 彼岸花に負のイメージが付いて回るのはどうしてでしょうか?太田治子が書いたように確かに花の形は変わっていますが、ユニークで魅力的と感じる人もいるでしょう。見た目よりも、花の生態と名前がイメージに関係しているようです。
 彼岸花の茎に含まれるアルカロイドを経口摂取すると下痢や腹痛、時には中枢神経の麻痺を引き起こすことがあります。この花には有毒植物というイメージが付いて回ります。

「彼岸」から連想するものは

 有毒植物であることから、害獣対策として墓地に植栽され、「お墓の花」というイメージも出来ました。さらに彼岸花の名前の由来になった「彼岸」には、この世の「此岸(しがん)」に対して、悟りの開けたあの世という意味があります。こうしたことから、彼岸花の名前が死を連想させることもあるのでしょう。

別名、異名は1000以上

 別名、異名は1000以上ありますが、大半は暗いイメージのものです。墓花(はかばな)、葬式花(そうしきばな)、死人花(しびとばな)、地獄花(じごくばな)、幽霊花(ゆうれいばな)、火事花(かじばな)…。「彼岸花を持って帰ると、家が火事になる」という言い伝えもあります。

良いことが起こる前に降ってくる

 このように書けば、悪いこと尽くめの花のように思えます。しかし、このイメージは仏教の世界では180度変わります。
 仏教辞典には、彼岸花は『法華経が説かれる際の瑞兆として天から雨(あめふ)り、見る者の固い心を柔軟に摺るという』と記されています。おめでたいことが起こる前に天から降ってくる、縁起の良い花とされているのです。
  ※瑞兆(ずいちょう)=良いことが起こる前兆

まるで仏さまのよう

 陸前高田市の妙心寺派慈恩寺の住職・古山敬光さんはネットの法話で次のように書いています。『あの彼岸花が好きです。(中略)わずか1週間ほどと言うはかない生命ながら、時期を間違えず訪れ、ひととき目を楽しませてくれてサーッと去っていく。しかも、この秋彼岸の時期にですから、まるで仏さまのようです。』

余りにも違うイメージ

 彼岸花を作家は「悪女」に、住職は「仏さま」にたとえました。受け止め方は余りにも違います。彼岸花は花の形が珍しいだけでなく、正と負の両極端なイメージを併せ持つ稀有な花だったのです。

※参考図書
「岩波仏教辞典」(編者:中村元、福永光司、田村芳朗、今野達、発行所:岩波書店)
「花をめぐる物語 彼岸花」(著者:太田治子、発行所:かまくら春秋社)
「全国四季花めぐり」(発行者:八巻孝夫、発行所:小学館)

※参考サイト
「植木ペディア ヒガンバナ」
「臨黄ネット 法話 彼岸花」
「心の法話 九月(長月)彼岸花」
「彼岸花(曼殊沙華)はなぜ忌み嫌われるの?」
「彼岸花は不吉な花?」
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福田徹(ふくだ とおる)

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花コラム第95回:クレマチス~愛、乙女、それとも悪魔?

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第95回:クレマチス~愛、乙女、それとも悪魔?

2025.08.1

 旧暦に基づいて季節を分ける季語は、現在の季節感とは合わないこともあります。風を受けて涼やかに回る風車は“夏の風物詩”として紹介されることが多いのですが、季語は夏ではなく春でした。
 《あたゝかき風がぐるぐる風車(正岡子規)》

風車にそっくりな花

 その「風車」という別名を持つ花が、春からこの暑い夏、さらには秋にかけて咲くクレマチスです。見ての通り花の形は風車にそっくりです。クレマチスのツルは鉄のように固いことから「鉄線(鉄仙)」という別名もあります。

人気の高い「つる性植物の女王」

 キンポウゲ科センニンソウ属 (クレマチス属)のクレマチス=写真左側=は300以上の品種があり、背丈は50cmから3mを超えるものまで様々。大・中輪の一重の花が多く、花色は代表的な紫のほか青、白、ピンク、黄、青色など色彩豊かです。植栽として人気が高く、「つる性植物の女王」とも言われます。
 センニンソウ(仙人草)=写真右側=をクレマチスの別名として紹介したサイトもありますが、同じ花ではありません。センニンソウはクレマチスの原種で、果実に付く綿毛が仙人の髭に似ていることから、この名前が付けられました。

愛はからみつく?

 『365日誕生花の本』によると、ヨーロッパではクレマチスには「愛」という別名もあります。何かにからみついて成長する姿から付けられたと言われます。名付けた人は数ある愛の中でも《おどろおどろしい愛》を連想したようです。
 背丈が高く、涼しい日影を提供することから「乙女の木陰の休憩所」「旅人の喜び」などとも呼ばれます。「悪魔の髪型」という変わった別名もあります。花の中心部の雌しべの形が似ているということでしょうか?

ところ変われば別名も変わる

 日本では見た目で「風車」「鉄線」という別名が付けられましたが、ヨーロッパでは見た目からさらに想像をめぐらせ、ひとひねりした名前が生まれました。同じ花から「愛」「乙女」「悪魔」などと全く異なるイメージを思い浮かべたのも面白いところです。ところ変われば、名前の付け方も変わってきます。

クレマチスの季語は?

 ところで、品種によっては春、夏、秋と季節を問わずに咲くクレマチス(鉄線)の季語は? 調べてみると、夏でした。
 《てっせんは花火の花のたぐひかな(北村季吟)》
 《いつ来ても水打ってあり鉄線花(米田双葉子)》
 風車と違って、この季語は今の季節感に合いました。

※参考図書
「366日誕生花の本」(著者:瀧井康勝、発行所:日本ヴォーグ社)
「12か月栽培ナビ④ クレマチス」(著者:金子明人、発行所:NHK出版)
「色分け花図鑑 クレマチス」(著者:杉本公造、発行所:学研教育出版)

※参考サイト
「花の名前の不思議 / 前編」
「みんなの趣味の園芸 クレマチスとは」
「日本薬学会 センニンソウ」
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花コラム第94回:ハイビスカス~「花の命は短くて…」は誤解されていた

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第94回:ハイビスカス~「花の命は短くて…」は誤解されていた

2025.07.1

 見るも鮮やかな赤や黄色の花びらが大きく見開いて、ハイビスカスが夏本番を告げています。アサガオ、ヒマワリ、サルスベリ…。夏の花は色々ありますが、ハイビスカスは明るい南国ムードを醸し出します。

ハワイや沖縄の花

 ハイビスカスと言えば、フラダンスの女性の髪飾り=写真上側=でお馴染みです。2、30年前にハワイ旅行をした方なら、日本航空のホノルル便「スーパーリゾート・エクスプレス」の尾翼などに小鳥とともに大きく描かれていた赤い花=写真下側=を覚えていらっしゃるかもしれません。
 ハワイの州花になっていますが、日本でも沖縄市や鹿児島県与論町など沖縄、鹿児島の多くの自治体の花にも指定されています。

色とりどりの大小の花

 ハイビスカスはアオイ科フヨウ属の常緑の低木で、世界の熱帯から亜熱帯まで広く栽培されています。沖縄では庭木や道路沿いの緑化樹としてもよく見かけます。花の大きさは花径5㎝ほどのものから人の顔の大きさのものまであり、赤のほかピンク、黄、白、オレンジなど花色が多いのも特徴です。

元気いっぱいでも一日限りの命

 ハイビスカスの交配は20世紀初めからハワイで始められ、今では1万種ほどの園芸品種が作出されています。暑さに負けない、元気いっぱいの花というイメージがありますが、意外なことに大半の品種は咲いたその日に萎む「一日花」です。

詩の全容が分かる

 《花のいのちはみじかくて 苦しきことのみ多かれど》
 まるで一日花の命の短さを嘆いているような有名な詩です。作家の林芙美子(1903~1951)=写真は尾道市にある芙美子像=が色紙などに好んで書いたものですが、出典ははっきりしていませんでした。
 短い2行だけの詩ではないかとも言われていましたが、この詩の全容が16年前に分かりました。「赤毛のアン」の翻訳者・村岡花子さん(1893~1968年)の東京都内の遺族宅の書斎で、芙美子が原稿用紙に万年筆でしたためた詩が額に入れられて飾られていたのです。芙美子が親交のあった村岡さんに贈ったものと思われます。詩の全容は次の通りです。
  ※写真は「Dive! Hiroshima ひろしま公式観光サイト」から転載

「多かりき」ではなく「多かれど」だった

 《風も吹くなり 雲も光るなり 生きている幸福は 波間の鴎のごとく 漂渺(ひょうびょう)とただよひ  生きてゐる幸福は あなたも知ってゐる 私もよく知ってゐる 花のいのちはみじかくて 苦しきことのみ多かれど 風も吹くなり 雲も光るなり》
 『goo辞書』や『Weblio国語辞典』などでは《苦しきことのみ多かりき》と紹介されていますが、芙美子は《苦しきことのみ多かれど》と書いています。有名な言葉でも、間違って言い伝えられていることがあります。芙美子の詩もそうだったのでしょう。
  ※写真は芙美子がしたためた詩

嘆くだけでなく、幸福も詠った詩だった

 この詩は「女性を花にたとえ、楽しい若い時代は短く、苦しい時が多かったみずからの半生をうたったもの」(goo辞書)と解釈されてきました。しかし、この解釈は《花のいのちはみじかくて 苦しきことのみ多かれど》の2行に限ってのものでした。
 詩全体を通して読むと、芙美子は短く苦しい人生をいたずらに嘆いているのではありません。《風が吹き、雲が光る》世界で生きる幸せをも詠っていたのです。個性が強く、奔放に生きた芙美子は誤解されることもあったと言われますが、彼女が書いた詩もまた誤解されていたことになります。

 自らの短い命を知ってか知らでか、ハイビスカスは今日も明るく、美しく咲いています。

※参考図書
「NHK趣味の園芸 ハイビスカス」(著者:小川恭弘、発行所:NHK出版)
「2009年9月6日付け中国新聞」
「アンのゆりかご 村岡花子の生涯」(著者:村岡恵理、発行所:マガジンハウス)

※参考サイト
「レファレンス協同データベース」
「Dive! Hiroshima ひろしま公式観光サイト」
「アロハプログラム」
「AIRLINERS」
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花コラム第93回:ツユクサは花ではない、“露の精”である

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第93回:ツユクサは花ではない、“露の精”である

2025.06.1

 梅雨時は灰色の空に覆われる日が続きますが、野や山に目をやれば思いのほかカラフルな光景が繰り広げられています。アジサイは青、紫、ピンク色の花を、ビヨウヤナギやキンシバイは黄色い花をつけ、葉は雨に濡れて緑を濃くしています。
 様々な色が交錯する中でも、ツユクサの青はひときわ鮮やかです。

1日限りの短い命

 ツユクサはこれから秋にかけて、道端や草むら、土手などを散歩していて、よく見かける花です。ただし、午前中の散歩に限ります。朝早く咲いて昼には萎む一日花で、英語名は「Dayflower」。文字通り、一日限りの短い命の花です。
 ツユクサはツユクサ科ツユクサ属の一年生植物で、繁殖力が強く、1.5~ 2 cmの花を次々とつけます。花びらは3枚あり、上の2枚は青くて大きく、下の1枚は白くて小さいという独特の花姿をしています。

ツユクサは汗をかく

 「露草」の語源は、はかない命から朝露を連想して付けられたという説があります。また、衣服を染めるのに使われていたことから、色がつく「ツキクサ」がもとになったとも言われています。
 ツユクサの葉は、雨が降っていなくても濡れることがあります。暑い時は、葉の気孔が開いて水を出して気化熱で自らを冷やします。私たちと同じように汗をかくのです。名前の本当のいわれは、ツユクサの汗が露と見紛われたということかもしれません。

儚さや心変わりのたとえに

 日本では昔から馴染みのある花で、万葉集では「月草」の名前で9首に詠みこまれています。ツユクサで染めた色はすぐに落ちることから、儚い命や恋、心変わりにたとえられました。
 《月草の借れる命にある人をいかに知りてか後も逢はむと言ふ》(作者不明) (月草のように儚い命の私たちなのに、どうして「後で逢いましょう」なんて言うのですか)

「花ではない。露の精である」

 「不如帰(ほととぎす)」の小説で知られる明治の小説家・徳富蘆花(1868ー1927)=写真左側=は著書「みみずのたはこと」=写真右側=の中でツユクサを絶賛しています。
 『碧(あお)色の草花の中で、彼はつゆ草の其(そ)れに優(ま)した美しい碧色を知らぬ。=中略=花の透(す)き徹(とお)る様な鮮やかな純碧色は、何ものも比(たぐ)ふべきものがないかと思ふまでに美しい。つゆ草を花と思ふは誤りである。花では無い、あれは色に出た露の精である。』
 『露の精』とまで言われると、今までツユクサを何気なく見ていたことが申し訳なくなってきます。
  ※本の著者名「徳富健次郎」は徳富蘆花の本名

つゆ草を踏みにじるな

 さらに蘆花は、私たちのツユクサに対する態度を𠮟りつけます。
 『吾等(われら)は兎角(とかく)青空ばかり眺めて、足もとに咲くつゆ草をつひ知らぬ間に蹂(ふ)みにじる。』
この梅雨時、ツユクサを見かけたら、足を止めて、じっくり鑑賞してみることにしましょう。

※参考図書
「みみずのたはごと」(著者:徳富健次郎、発行所:角川書店)
「雑草のサバイバル大作戦」(作・絵:里見和彦、監修:高知県立牧野植物園、発行所:世界文化社)
「月刊かがくのとも つゆくさ」(さく:矢間芳子、発行所:福音館書店)

※参考サイト
「日本薬学会 生薬の花」
「国立科学博物館」
「Youmeishu 元気通信 生薬ものしり事典93」
「万葉集‐植物が詠い込まれた歌を楽しむ 宇都宮大学名誉教授 竹内安智」
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花コラム第92回:カキツバタ~教科書で出会った“やんごとなき”花

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第92回:カキツバタ~教科書で出会った“やんごとなき”花

2025.05.1

 庭、公園、道端、山道…。花との出会いの場は色々とあります。カキツバタ(杜若、燕子花)の場合は少し違って、中学・高校の教科書でした。

インパクトのある光琳の屏風絵

 「カキツバタという花のあることを知ったのは何時だったかな?」と思い起こすと、随分と昔の中学生の頃に遡りました。美術の教科書に尾形光琳(1568~1716)の「燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)」=写真=が載っていました。国宝に指定された、日本絵画の代表作の一つです。金地の屏風にカキツバタの濃い緑の葉と深い紫の花が鮮烈に描かれた絵は、まだ鑑賞の素養のない中学生にとってもインパクトがありました。
  ※写真は「燕子花図屏風」右隻(根津美術館蔵)

唐衣着つつなれにし……

 高校の古文の授業で習った『伊勢物語』には、在原業平が謳ったとされる有名な和歌が載っていました。
 《唐衣(らごろも)着()つつなれにしましあればるばる来ぬる旅(び)をしぞ思ふ》
(はるばると旅に出てきたが、都には長年連れ添った最愛の妻を残してきた。咲き競っているカキツバタを見るにつけて、妻が恋しく思われる)
  ※写真は伊勢物語の舞台になった愛知県知立市の「八橋かきつばた園」の歌碑
  ※和歌の下線は筆者が付けました。

やんごとなき花

 和歌の各句の頭の5文字を続けて読むと「かきつはた」になります。平安時代は濁点の表記がなく、「ば」と「は」は同じ文字と解釈されるので、「かきつばた」と読み取れます。
 詩や文章に別の言葉を折り込む「折句(おりく)」という技法が施されています。古文は苦手な科目でしたが、技法の面白さもあって、この歌は印象に残りました。光琳の絵と重なって、平安貴族が好んだ“やんごとなき”花というイメージが植えつけられました。

開発で絶滅危惧種に

 アヤメ科アヤメ属のカキツバタは湿地や水辺に生育する多年草です。5、6月頃に高さ30~80cmの花茎の先端に青紫の花びらが垂れた形の花をつけます。万葉の時代から詩歌で謳われ、日本人が慣れ親しんだ花でした。
 しかし、都市開発や除草剤の使用などで次第に少なくなり、今では多くの自治体が絶滅危惧種に指定しています。

法華寺で一度限りの出会い

 希少な花とあって、実際に見る機会はなかなかありませんでした。花の名前を知ってから相当の年月が経ってから、奈良・法華寺の庭園でやっと“実物”と出会い、「これが、あのカキツバタか」と食い入るように見つめました。群生する細長い緑の葉の間からそっと顔をのぞかせるカキツバタは、まさに抱いていたイメージ通りの“やんごとなき”花でした。後にも先にも“実物”と出会ったのは、この時一度だけです。
  ※写真は法華寺のカキツバタ(「なら旅ネット」から転載)

燕子花と杜若

 花の名前は、昔は花の汁を布に擦り付けて染めたことから、「かきつけ花」が転じて「かきつばた」になったと言われています。漢字表記は二つあり、「燕子花」は燕の子が羽を広げて飛んでいる姿が花に似ていることから充てられたという説があります。
 もう一つの漢字「杜若」は、ヤブミョウガを意味する中国の言葉に由来します。どこかで意味が取り違えられて、カキツバタの当て字になったようですが、「若い杜(もり)」と書く「杜若」もなかなか味のある表記です。

希少な名字との出会い

 数年前のことです。スーパーで買い物をして清算する折、ふと見たレジ係の女性の名札に「杜若」と書かれていました。思わず「いいお名前ですね」と言うと、女性は「よく言われます」とでもいった感じで微笑まれました。
 後で調べると、杜若の名字はカキツバタが生育していた宮崎県西臼杵郡や京都市が発祥です。その数は全国でわずか100人ほど。名字の数のランキングは、なんと31,170番目でした。花と同様に極めて希少なお名前と出会ったことになります。

※参考図書
「奈良四季の花めぐり」(文:道浦母都子、発行所:淡交社)
「みんなの趣味の園芸」(NHK出版)

※参考サイト
「万葉集遊楽 その百十(かきつばた)」
「manapedia」
「名字由来ネット」
「奈良県観光公式ネット『なら旅ネット』」
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福田徹(ふくだ とおる)

元読売新聞大阪本社編集委員。社会部記者、ドイツなどの海外特派員、読売テレビ「読売新聞ニュース」解説者、新聞を教育に活用するNIE(Newspaper in Education)学会理事などを歴任、武庫川女子大学広報室長、立命館大学講師などを勤めました。
花の紀行文を手掛けたのをきっかけに花への興味が沸き、花の名所を訪れたり、写真を撮ったりするのが趣味になりました。月ごとに旬の花を取り上げ、花にまつわる話、心安らぐ花の写真などをお届けします。

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花コラム第91回:ラベンダー~時をかけるアイテム

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第91回:ラベンダー~時をかけるアイテム

2025.04.1

 「あの時代に行きたい」「あの歳に戻れたら」…。誰もが一度は夢見るタイムトラベルは、SF小説や映画の定番とも言えるテーマです。
 今話題の日本アカデミー賞最優秀作品賞の受賞作「侍タイムスリッパ―」やSF映画の大ヒット作「バック・ツゥ・ザ・フュ―チャー」では落雷がタイムスリップのきっかけになりました。ドラマ「Jin」では脳外科医が階段から転がり落ちて江戸時代にタイムスリップしました。大きな衝撃がきっかけになることが多いのですが、中には花がタイムトラベルのアイテムになる話もありました。
  ※冒頭の写真は「ラベンダーパーク多可」(兵庫県多可郡)

香りをかぐと気を失う

 1967年に刊行された筒井康隆の小説「時をかける少女」=写真=は二度にわたって映画化され、アニメ作品にもなったSF名作です。中学三年生の芳山和子は掃除をしていた理科実験室でラベンダーの香りをかいで意識を失い、気が付くと前日の朝に戻っていました。
 それから時を超えた青春ストーリーが繰り広げられますが、上映後は「ラベンダーの匂いをかぐと、気を失う」という都市伝説が一部で広がりました。

ハーブの女王

 シソ科ラヴァンドラ属のラベンダーは「ハーブの女王」とも呼ばれ、古くから薬用や香水の原料などとして利用されてきました。
 英語のlavenderは「洗う」という意味のラテン語のlavareに由来、古代ギリシャ・ローマの時代は洗濯や沐浴などに利用されていたと言われています。
 6月から7月にかけて、紫や青色の小さな花弁の花を咲かせます。一面、ラベンダーが生い茂った北海道・富良野の景色=写真=が思い浮かびますが、広く九州までの各地で見ることが出来ます。
※写真は「ふらのワインハウス ラベンダー園」(ふらの観光協会公式サイトから転載)

アロマテラピーの代表的な香り

 ラベンダーは鑑賞用としても人気がありますが、何と言っても優しくて爽やかな香りが魅力的です。心を落ち着かせ、緊張や不安、怒りを和らげる効果があります。その精油はアロマテラピー(芳香療法)の代表的な香りと言われ、“万能精油”という別名もあります。
 花言葉は「幸せが来る」「期待」「優美」「清潔」など。香りから連想したのでしょう。「あなたを待っています」という言葉もあります。これは、ある内気な少女が愛しい人に思いを伝えられずに待ち続け、一輪のラベンダーになってしまったというヨーロッパの伝説に由来します。
 ラベンダーの香りをかげば、うっとりして夢見心地になって時を忘れる。そんな感じで、芳山和子は時をかけたのでしょうか。

香りをかがせたくない人は

 小説「時をかける少女」によると、身体移動能力刺激剤という薬品にラベンダーの花を乾燥させた香料を加えると、一度に時間と場所を移動する薬が出来るとか。
 そんなことが本当に出来れば……。どの時空へ行きたいかは、人によって様々です。ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領なら、世界の陸地の6分の1に当たる広大なユーラシア大陸北部を支配していたロシア帝国の時代を選ぶに違いありません。ウクライナの人々は、ロシアに攻められる前の平和な時代を渇望するでしょう。
 だとすれば、プーチン大統領にだけはラベンダーの香りをかがせたくはありません。

※参考図書
「時をかける少女」(著者:筒井康隆、発行所:角川書店)
「NHK趣味の園芸 ラベンダー」(著者:下司高明、発行所:NHK出版)
「園芸クラブ ラベンダー」(著者:鷹谷宏幸、発行所:誠文堂新光社)

※参考サイト
「ふらの観光協会公式サイト」
「花言葉 誕生花」
「映画.com」
「じゃらんニュース」
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花コラム第90回:シバザクラ~妻への思いが込められた“花の絨毯”

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第90回:シバザクラ~妻への思いが込められた“花の絨毯”

2025.03.1

 記録的な大雪に見舞われた冬がようやく去り、花の季節が訪れました。全国各地の公園や野原、あぜ道、庭先などで色とりどりの花が芽吹き、咲き始めました。
 どんな所でも、どのような咲き方でも、花にはそれぞれの美しさがありますが、中でも地面いっぱいに絨毯を敷き詰めたように咲く姿は絶景です。シバザクラ(芝桜)は、そんな“花の絨毯”の代表的な花です。

芝のように広がって咲く、桜のような花

 ハナシノブ科の多年草のシバザクラは4月から5月にかけて、芝のように広がって桜のような可愛い花を咲かせます。この見たままの姿が花の名前になりました。色は白、ピンク、青、藤など様々、品種によって濃淡が異なり、バラエティに富んでいます。

名所は沖縄を除く全国各地に

 シバザクラは暑さは苦手ですが、寒さには強く、名所は沖縄を除く全国各地に散在しています。北海道網走郡の「ひがしもこと芝桜公園」、埼玉県秩父市の「羊山公園」、山梨県南都留郡の「富士本栖湖リゾート」、愛知県北設楽郡の「茶臼山高原」=写真=、兵庫県三田市の「芝桜園 花のじゅうたん」、広島県世羅郡の「世羅高原農場 花夢の里ロクタン」……。
 ※写真は般財団法人・茶臼山高原協会のホームページから転載

個人のお宅も名所に

 名所の多くは公共団体やリゾート会社などが管理しているものですが、宮崎県新富町の公式ホームページのアーカイブを見ると、毎春、個人のお宅のシバザクラが写真=上は2010年、下は2016年=とともに紹介されていました。
 「黒木敏幸さん宅の芝桜がいよいよ見頃を迎えます。ピンクのじゅうたんを敷き詰めたような鮮やかな光景が皆様のお越しをお待ちしています。」「黒木さん宅周辺の臨時駐車場では地場産業振興会によります地場産品の販売中です。」

花畑に失明した妻への思いを込めて

 珍しいなと思って調べてみると、個人のお宅が観光名所になったいきさつが地元の新聞やテレビなどで紹介されていました。
 酪農を営んでいた黒木さんが自宅の庭にシバザクラの花畑を造ったのは30数年も前のことです。社交的だった妻の靖子さんが失明し、落ち込むことが多くなりました。黒木さんは「自宅にシバザクラの花畑を作れば、多くの人が来てくれて、妻の話し相手になってくれるかもしれない」と思い立ち、一から造園を勉強。失敗を重ねながらも、最終的には約4千㎡の綺麗な“花の絨毯”を造りあげて公開、年5、6万人が訪れるようになりました。

一人で広大な畑を管理

 夫婦愛が結実した花畑を見てみたいなと思いましたが、新富町のホームページは2017年以降は黒木さん宅のシバザクラの紹介記事を載せていません。当時、87歳だった黒木さんは「人には引き時というものがある」と考え、公開30年の節目の2017年に公開したのを最後に造園をやめられたそうです。土壌作り、苗作り、水の管理、雨で流れた土の補充…。一人で広大な地に花を絨毯のように敷きつめて咲かせるのには、大変なご苦労があったのに違いありません。
 黒木さん=写真上の左側=は宮崎ケーブルテレビのインタビュー(2017年4月19日放送)で「花が人を呼んでくれました。」と話され、7歳年下の靖子さん=同右側=は黒木さんに「心から、ありがとうございました。」と感謝されていました。
 ※写真は宮崎ケーブルテレビ映像から転載
 ※同テレビ局の黒木さん夫妻のインタビュー映像(https://www.youtube.com/watch?v=oQYxCfzQhIU&t=455s

花づくりに思いを馳せて鑑賞を

 花との出会いは一期一会。今では黒木さんの花畑を見ることは叶いませんが、今年の春も全国各地の花畑が私たちを楽しませてくれることでしょう。すべての花畑には作り手それぞれの思いが込められています。鑑賞する時は、花を愛でるだけでなく、花づくりに思いを馳せることも忘れないようにしたいと思います。

※参考サイト
「みんなの趣味の園芸 NHK出版」
「農園ガーデン空」
「にっぽんまんなか紀行」
「新富町ホームページ」
「宮崎日日新聞」
「ZEKKEI Japan」
「花の名所一覧表」
「宮崎ケーブルテレビ」
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花コラム第89回:天国の匂い~与謝野晶子が愛したサクラソウ

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第89回:天国の匂い~与謝野晶子が愛したサクラソウ

2025.02.1

 寒波がやって来たかと思えば寒さが緩むなど、寒暖差の激しい日が続きます。春の訪れを告げるサクラソウの咲くのが待ち遠しくなります。
 春先に可憐な花を一斉に咲かせるサクラソウは日本人にはなじみが深く、古くから多くの人を魅了してきました。

「一番美しいのは桜草」

 歌集「みだれ髪」や「君死にたまふことなかれ」の詩などで知られる“情熱の歌人”与謝野晶子(1878~1942)=写真は52歳の頃の晶子(鞍馬寺蔵)=は大の花好き、ことのほかサクラソウが好きでした。
 5万首もの詩を詠んだ晶子は歌人として余りにも有名ですが、実は子供にせがまれて100編近くの童話も書いています。その童話の一つ『環の一年間』では、様々な花が咲く温室の中で「一番美しいのは桜草の鉢」と書いています。

夏の夕方の雲のよう

 目の美しい、黒髪がふさふさした12歳の少女・千枝子はサクラソウの前に籐椅子を持ち込んで座り、母親と楽しげにおしゃべりをします=写真は童話『環の一年間』の中のイラスト=。
 「桜草は夏の夕方の雲のようですね。」「いい色だね。」「私は温室に来ると天国に来たように思う。」……。

桜を咲かせる草

 サクラソウはサクラソウ科の多年草で、草丈は15~20㎝、3月から5月にかけて花径2~5cmの花を咲かせます。桜のような花をつける草ということで、サクラソウ(桜草)と名付けられました。
 〈我国は草も桜を咲きにけり〉(小林一茶)
 一茶はサクラソウを「桜を咲かせる草」と見立てました。

大切にしたい希少な野草

 江戸時代から主に武士の間でサクラソウの本格的な栽培が始まり、白、紅、ピンク、紫などの色変わりや色々な形の花が生まれました。「連(れん)」と呼ばれる栽培グループが新しい品種の作出を競い合い、今では300を超える品種があります。
 サクラソウは田畑の水路沿いなど日差しや湿り気のあるところで生育します。しかし、開発が進んで生育地が少なくなったうえ、園芸目的で採取され続けたことから全国的に減少し、2000年に絶滅危惧類に指定されました。その後、ボランティアらが環境保全に取り組み、サクラソウは絶滅の恐れは少し減って準絶滅危惧類になりましたが、大切にしたい希少な野草であることに変わりはありません。

埼玉県とさいたま市の花

 埼玉県さいたま市桜区にある「田島ヶ原サクラソウ自生地」=写真はさいたま市観光協会のホームページから転載=は125年も前に国の特別天然記念物に指定されており、サクラソウは埼玉県とさいたま市の花になっています。荒川流域の一帯は江戸時代からサクラソウの名勝地として人々に親しまれてきました。「桜区」の地名は桜ではなくサクラソウに因んで命名されました。

大阪府民の花に晶子も喜んでいる?

 与謝野晶子の出身地は堺県和泉国(現・大阪府堺市)です。その大阪府民の花にもサクラソウは選定されています。
 大阪・花の万博(1990年)の前に行われた府民の人気投票(応募総数13,722通)ではパンジーが1位になりました。ところが、選定委員会はパンジーではなくサクラソウを府民の花に選びました。主な理由は、サクラソウが大阪の金剛山麓に自生していることでした。「何のための府民投票だったの?」という気もしないではありませんが、晶子は好きな花が選ばれて喜んでいるかもしれません。

天国の空気ってこんなの

 先の童話「環の一年間」で、晶子はこうも書いています。「天国の空気ってきっとこんなのでしょう、いい匂いがして。」
 サクラソウの匂いを気に留めたことはありません。この春、サクラソウに出会う機会があれば、近づいて“天国の匂い”をかいでみようと思います。

※参考図書
「定本 与謝野晶子全集第三巻歌集三」(著者:与謝野晶子、発行所:講談社)
「童話 環の一年間 与謝野晶子」(作者:与謝野晶子、編者:上田博、古澤多起子、発行所:和泉書院)
「サクラソウの目-繁殖と保全の生態学」(著者:鷲谷いづみ、発行所:地人書館)

※参考サイト
「与謝野晶子第十二歌集≪さくら草≫抄-1」
「みんなの趣味の園芸 サクラソウ」
「さいたま市 田島ケ原サクラソウ自生地」
「武蔵野新報 天然記念物指定100年」
「2020年4月23日レファレンス協同データベース サクラソウが大阪府の花になったきっかけは?」
「日本経済新聞大阪版1988年1月4日夕刊」
「サクラソウ‐日本のレッドデータ検索システム」
「Yumenavi小さなサクラソウが教えてくれる種を守りことの大切さ」
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