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花コラム

第47回:絹のレース編み?それとも“花の骸骨”?~カラスウリ

プレミアムフラワーの花コラム

2021.7.1

第47回:絹のレース編み?それとも“花の骸骨”?~カラスウリ

 大概の花は「美しい」「綺麗」「可愛い」などといった好印象の言葉で形容されます。ところが、人によっては印象が大きく変わってくる花もあります。その一つがカラスウリです。

 カラスウリはウリ科の多年草で、東北地方の南部から九州にかけて自生しています。7月から9月にかけて開花しますが、その咲き方も花の形もユニークです。

夕暮れに開き、翌朝に萎む

 「天災は忘れた頃にやってくる」の言葉を遺した物理学者で随筆家の寺田寅彦(1878~1935)は、カラスウリの生態を著書『からすうりの花と蛾』の中で書いています。
 《縁側で新聞が読めるか読めないかというくらいの明るさの時刻が開花時で(中略)十分前には一つも開いていなかったのが十分後にはことごとく満開しているのである。実に驚くべき現象である。》
 カラスウリは夕暮れ時から日が沈むまでのわずかの間に開花し、翌朝には萎んでしまう一夜花なのです。

男嫌いの花、縁起の良い種

  名前の由来は「カラスが実を食べるから『烏ウリ』になった」「生育旺盛なカラスウリが絡みついた木を枯らしてしまうから『枯らすウリ』になった」など諸説があります。
 花言葉もなかなかユニークです。人目を避けるようにして夜に咲くことから「男嫌い」。きっちりと夜を待って咲くことから「誠実」。さらに、黒褐色の種=写真=が結び文に似ているので「良き便り」。
 ちなみに種は、振れば思い通りのものが出てくる「打出の小槌(うちでのこづち)」にも似ています。そこで、財布に入れるとお金が増えるという縁起物になっています。

花びらからレースが広がる

 カラスウリは白い花びらを5枚つけます。それぞれの花びらの外側は糸のように裂け、レースを広げたように伸びています。暗闇の中でも、白いカラスウリは目立ち、夜行性のスズメガがやってきて受粉の手助けをします。雌雄異株ですが、同じように花が咲き、見た目では区別はつきにくいそうです。

美しさを称賛する記述が次ぎ次ぎと

 これだけインパクトのある姿をしている花は、そうは無いでしょう。私は実物を見たことはありませんが、本やネットを見ると、称賛する記述が次ぎ次ぎと出てきます。
 「現実離れしているほど美しい」「神秘的で幻想的な魅力」「青ざめたように白く美しく妖艶」「突然視界に入ってくるとドキッとする」「誰でも綺麗だなあと感嘆の声をあげる」「夏を告げる上品な花」「絹糸のレース編みのよう」…。

えっ!花の骸骨?

 ところが、自然科学者の寺田の手にかかると、全く違う表現になります。
 《花の骸骨(がいこつ)とでもいった感じのするものである。》
 えっ!あの骨だらけの骸骨?思わず、読み返しました。カラスウリが気の毒になるようなたとえではありませんか。
 寺田は、花びらから伸びた白い糸を骨に見立てたのです。この花が美しいかどうかの概念はなく、何に似ているか、何を連想するかと考えて、見つめたのでしょう。

花は不思議な小宇宙

 寺田は、こうも書いています。
 《花というものは植物の枝に偶然に気まぐれにくっついている紙片や糸くずのようなものでは決してない。われわれ人間の浅はかな知恵などでは到底いつまでたってもきわめ尽くせないほど不思議な真言秘密の小宇宙なのである。》
 そう言われれば、どうして花びらから白い糸が伸びているのかも分かりません。

見て、感じたい

  一夜限りの不思議な小宇宙となれば、どうしても見て、自分がどう感じるのかを知りたくなります。カラスウリは日中は目立ちませんが、葉=写真=はハート形で、巻きヒゲが出ているのが特徴です。明るいうちに目星を付けておき、暗くなるのを待って再び見に行こうと算段しています。

※参考図書
「寺田寅彦随筆集第三巻 からすうりの花と蛾」(編者:小宮豊隆、発行所:岩波書店)
「カラスウリのひみつ」(著者:真船和夫、発行所:偕成社)
「朝に咲く花・夕に咲く花」(著者:南光重毅、発行所:誠文堂新光社)

※参考サイト
「花言葉⁻由来」
「草木図譜」
「カラスウリ‐松江の花図鑑」
「カラスウリ‐徳島県立博物館」

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福田徹(ふくだ とおる)

元読売新聞大阪本社編集委員。社会部記者、ドイツなどの海外特派員、読売テレビ「読売新聞ニュース」解説者、新聞を教育に活用するNIE(Newspaper in Education)学会理事などを歴任、武庫川女子大学広報室長、立命館大学講師などを勤めました。
花の紀行文を手掛けたのをきっかけに花への興味が沸き、花の名所を訪れたり、写真を撮ったりするのが趣味になりました。月ごとに旬の花を取り上げ、花にまつわる話、心安らぐ花の写真などをお届けします。

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第46回:ユリ~ウイルスに負けない花

プレミアムフラワーの花コラム

2021.6.1

第46回:ユリ~ウイルスに負けない花

 春から夏にかけては、数多くの花を楽しめる季節です。中でもユリ(百合)に親しみを覚える方は多いでしょう。しなやかに伸びた茎の先で、花びらを反り返らせて、うつむき加減に咲く漏斗状の花は、独特の清楚な佇まいをしています。

 『たてば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』のことわざにあるように、美人に例えられることも多く、百合、小百合、百合子などは人気のある女性の名前です。

園芸種は1万5千種以上も

 ユリはユリ科ユリ属の多年草の総称です。原種は115種、さらに赤、白、ピンク、オレンジなどさまざまな色や形の品種が作られ、今では園芸種は1万5千種を超えます。庭植え、鉢植え、切り花で鑑賞するだけでなく、野山に行けば野生のユリも楽しめます。

聖母マリアの象徴の花

 ユリはヨーロッパでの栽培の歴史が最も古い植物の一つで、ギリシャ神話や聖書に度々、登場します。聖母マリアの葬儀の3日後に墓を訪れると、中が空になっており、ユリとバラの花だけが残っていたーというキリスト教の伝説があります。ユリは聖母マリアの象徴の花とされ、「純潔」「無垢」「威厳」などの花言葉が生まれ、「純潔の花」として儀式などで使われてきました=写真はアウグスト・ピション作「受胎告知」(聖母マリアにユリを贈り、受胎告知する大天使ガブリエル)1859年=。

古事記や万葉集でも

 日本では、古事記(712年)に「山由理草(やまゆりそう)」の記述があり、万葉集(奈良時代末期)にはユリを詠んだ10首の歌が載っています。

 『夏の野の茂みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものぞ(坂上郎女))』(夏の野にひっそりと咲いているヒメユリのように、相手に知ってもらえない恋は苦しい)。ヨーロッパでも日本でも、ユリには女性のイメージが重なります。

球根の99%にウイルスが

 美しく、清潔感にあふれる花ですが、ユリには大敵があります。物の本によると、ユリの球根の多くはウイルスに汚染されている、野生ユリの球根は何と99%にウイルスが寄生しているというのです。人は…いいえ花は見かけによらないものです。

 ウイルスによって、モザイク病や急性落葉病などが発症することがあります。野に自生していたヤマユリを持ち帰って庭に植えたら、1、2年で枯れてしまったという話を聞きますが、そのほとんどがウイルスによるものです。

ウイルスに負けない株を

 しかし、ウイルスが寄生しているからといっても、必ずしも発症するとは限りません。山梨県から「農の匠」に選ばれたヤマユリ研究家の小股虎雄氏によると、栽培の環境を整え、しっかりした株に育てさえすれば、ウイルスに負けないユリになります。

 具体的には、ウイルスを感染させるアブラムシをきれいに駆除する。モザイク病が発生しやすい多湿を避け、風通しを良くする。ユリは乾燥にも弱いので、強い日差しは避け、半日陰の環境で育てる。病気予防のため、こまめに農薬を散布する…。要は、注意深く見守り、丁寧に手入れすることです。

生まれながらに病気を持つ

 小俣氏は「私は『すべてのヤマユリは、生まれながらに病気を持っている』という気持ちで栽培している。株が充実している間は発病を抑えているが、樹勢が落ちると一気に発病してくるようにみえるからだ」と記しています。

ウィズ(with)コロナの時代も

 コロナウィルスを撲滅するのは困難であることを前提に、新たな戦略や経済・生活様式を考える「ウィズ(with)コロナ」の時代がやってきたと言われています。私たち一人ひとりが注意深く予防し、丁寧に対策をとる。ユリの栽培と相通じるところがあるようです。

※参考図書
「ヤマユリ 球根の増殖と花の楽しみ方、自生地復元」(編著者:小股虎雄、発行:農山漁村文化協会)
「NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12か月 ユリ」(著者:肥土邦彦、出版社:日本放送出版協会)

※参考サイト
「食用ユリのウイルス対策とウイルスフリー化事業による防除対策 日本植物防疫協会」
「ユリのウイルス病対策‐ユリ.Net」
「ユリ(園芸種)Lilium sp.」

アウグスト・ピションAuguste Pichon1805-1900 作「受胎告知」1859
受胎告知で登場する大天使ガブリエルが聖母マリアにプレゼントとして渡したのが白い百合の花

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福田徹(ふくだ とおる)

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第45回:終わり方は花さまざま~エゴノキは可愛らしく

プレミアムフラワーの花コラム

2021.5.6

第45回:終わり方は花さまざま~エゴノキは可愛らしく

 今年の桜は咲くのが早く、その分だけ早く散りました。満開の桜はコロナ疲れで鬱々とした気持ちを慰めてくれましたが、花びらがハラハラと散る姿もまた心に残るものでした。終わり方は花さまざま。今回は、桜とは違った趣で、可愛らしく散るエゴノキがテーマです。

“満天の星”か“森のシャンデリア”

 エゴノキは日本全土に分布するエゴノキ科の高さ10m近くの落葉高木です。5月から6月にかけて、直径2~2.5cmの沢山の白い花を、枝先にぶら下げるようにして咲かせます。花冠は五つに裂け、五角形に開いています。星形の花が下向きに咲いているので、下から見上げると“満天の星”のようにも見えます。小さいながらも、鈴なりに咲く姿はゴージャスで、“森のシャンデリア”とも呼ばれています。

 野趣に富んだ形をしており、暑さ、寒さに強いことから、庭木として人気があり、玄関先のシンボルツリーになっているのを見かけることもあります。

泡立つ石鹸の木

 秋には卵型の果実をつけます。エゴノキの名前は、果皮を口にすると喉を刺激するえごい(えぐい)味がすることに由来します。水に混ぜると泡立つサポニンを含み、昔は石鹸として使われたこともあり、“石鹸の木”の異名も持っています。サポニンは魚を一時的に麻痺させる作用があり、昔はしぼり汁を川に流して漁に使われたとも言われています。

日本語の表現は豊か

 花の終わり方はいろいろあり、それを表現する日本語もいろいろあります。冒頭に書いた桜は文字通り『散る』。昔は入学試験の合否は電報で知らせることが多く、「サクラサク」が合格、「サクラチル」が不合格を意味しました。

 花弁ごとボロボロと落ちていく梅や萩は『零(こぼ)れる』。「零れ梅」は零れ落ちた梅の花、あるいは梅の花をあしらった和服などの模様=写真=のことです。

 花が丸ごと落ちる椿は『落ちる』、あっという間に花の形がなくなってしまう牡丹と芍薬は『崩れる』、朝顔は『しぼむ』、バラは『枯れる』、紫陽花(あじさい)は『しおれる』…。日本語は実に豊かです。

クルクル回りながら落ちる

 では、エゴノキの花はどのような終わり方をするのでしょうか?椿のように花が丸ごと落ちますが、一つひとつの花は小さくて軽いことから、クルクルと回りながら落ちるそうです。私はまだ、エゴノキの花の最後を見たことはありませんが、三階建てぐらいの高さから白い花が次から次へと回りながら落ちてくる様は可愛らしく、幻想的な光景に違いありません。花の最後のパフォーマンスを想像するだけで、楽しくなってきます。

舞い落ちる姿を見たい

 エゴノキの花の終わり方を表現する日本語を本やネットで探しましたが、決まった言い方はないようです。あえて言えば『舞い落ちる』でしょうか。今年はエゴノキの花が舞い落ちる姿を見届けよう。そう思って、今からエゴノキのある場所をチェックしています。

※参考図書
「garden trees 庭木セレクトブック」(積水ハウス株式会社)
「みんなの趣味の園芸 エゴノキとは」(NHK出版)

※参考サイト
「重井薬用植物園」
「Radio Mix Kyoto FM 87.0MHz」
「Hatena Blog 種類の百科事典」
「GOODCROSS 表現色々!花の終わり」
「ここは屋久島 エゴノキの花が舞い落ちる」

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第44回:穏やかに暮らせる幸せを再び~スズランに託して

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2021.4.5

第44回:穏やかに暮らせる幸せを再び~スズランに託して

 「美しい花には棘(とげ)がある」と聞けば、バラやアザミが思い浮かびます。この諺(ことわざ)に引っ掛けて言えば、「可憐な花には毒がある」こともあります。その一つが、意外なことに世界中で愛されている、あのスズランです。これから5月にかけて、見頃を迎えます。

鈴のような花と蘭のような葉

 スズランはスズラン亜科スズラン属に属する多年草です。小さな鈴のような花と蘭のような葉の形から、鈴(スズ)蘭(ラン)と名付けられました。この名前で十分のように思えますが、他にも多くの別名を持っています。

君影草は小鈴を振るように咲く

 良く知られているのは、ロマンチックな響きの君影草(きみかげそう)でしょう。「♫白い小鈴を ふるように 君影草の 花が咲く♫」。1999年に日本レコード大賞金賞を受賞した『君影草』(作詞:水木かおる、作曲:弦哲也)は、川中美幸がスズランに儚い恋を重ね合わせて歌い上げたものでした。

花の名前にも時代が

 君影草の名前の由来を本やネットで調べると、「葉の陰でひっそりと咲いている姿が、男性の後ろでたたずむ古き日本女性のイメージと重なる」という説が大半でした。女性は男性の前に出てはいけないーという固定観念にとらわれていた頃に命名されたようです。今では、このようなイメージは通用しません。花の名前にも、時代を感じます。

故ダイアナ妃も手にしたスズラン

 「谷(間)の百合」「谷間の姫百合」の別名もあります。英語名「Lily of the valley」からきています。ヨーロッパでは「聖母の涙(Our Lady’s Tears)」と呼ばれることもあります。キリスト昇天の日の花はスズランとされています。
 結婚式の花としても知られ、イギリスの故ダイアナ妃が挙式の時に手にしていたブーケの中にはスズランも入っていました。

毒性は青酸カリの15倍も

 色々な名前を持ち、お目出度い場で使われるのは、それだけスズランが愛されているということです。ところが、スズランの花や葉、根などには、コンバラトキシンなどの強い有毒物質があります。摂取すると悪寒、吐き気、けいれん、血圧低下などの中毒症状が起こります。スズランを活けていた花瓶の水を誤って飲んだり、赤い実=写真=をベリーと間違えて食べたりして死亡したケースも報告されています。毒性は、青酸カリの何と15倍も強いと言われています。

それでも人気に変わりはない

 「あの清楚な花が猛毒を持っているなんて…」とびっくりしますが、花にしてみれば、棘や毒を持つのは自らを守る術の一つに過ぎません。毒を持っているからと言っても、スズランが可愛らしく、人気のある花であることに変わりはありません。

 札幌市や奈良県宇陀市、広島県世羅町などは自治体の花に指定しています。神戸電鉄の「鈴蘭台駅」(神戸市北区)は、昭和初期に「関西の軽井沢」を目指して開発された際に公募で決められた駅名です。

藤村も愛でた、幸福の帰来を意味する花

 島崎藤村は「千曲川のスケッチ」の中で、スズランが一面に咲く信州の岡を描写し「谷の百合は一名を君影草とも言って、『幸福の帰来』を意味する」と書いています。ロマン主義の詩人も愛でたスズランの花言葉は「幸せが再び訪れる」。毎年、人々が待ち焦がれる春の訪れを、スズランが象徴していることに由来します。
 新型コロナウィルスのワクチン接種が始まりました。スズランの花言葉に託して、パンデミックが収まり《穏やかに暮らせる》幸せが再び訪れますように…。

※参考図書
「聖人と花」(著者:グラディス・テイラー、訳者:栗山節子、発行所:八坂書房)
「NHK趣味の園芸 山野草〈春〉」(著者:小山征男、NHK出版)
「千曲川のスケッチ」(著者:島崎藤村、発行所:岩波書店)
「毒草の誘惑」(著者:植松黎、発行所:講談社)
「神戸の町名 改訂版」(神戸新聞総合出版センター)
※参考サイト
「Mayonez スズランの花言葉」
「うたまっぷ 君影草」

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第43回:タンポポの咲く季節は

プレミアムフラワーの花コラム

2021.3.1

第43回:タンポポの咲く季節は

 ♫スミレ、タンポポ、レンゲソウ。春めいてくると、三つの花の名前が歌詞の一部のように口をついて出てきます。戦前の初等科国語の教科書「よみかた」の「花まつり」の項=写真=に出てくる一節です。
 コラムの下調べをするまでは、この教科書を読んだことはありませんが、春の代表的な野花として言い伝えられてきた一節が、語呂の良さもあって耳に残っていたようです。

たくましく咲く花

 とは言え、実際にはタンポポは春だけでなく、夏や秋にも咲いています。道端や空き地、時には舗装道路の割れ目などで、たくましく花をつける姿は日常的に見かける景色です。では、どうしてタンポポは春の野花の代表のように言われるようになったのでしょうか?

日本タンポポと西洋タンポポ

 タンポポはキク科タンポポ属の植物の総称で、世界では数百種はあります。日本で生育しているタンポポは、日本タンポポと言われる在来種と西洋タンポポと言われる外来種(帰化種)に大別されます。西洋タンポポは「明治時代に札幌農学校のアメリカ人教師が、サラダに使う食用野菜として初めて日本に持ち込んだ」と伝えられています。
 日本の“植物学の父”牧野富太郎は、1904年に繁殖力の強い西洋タンポポが札幌で見つかったことを発表し、「将来、このタンポポが日本中に広がっていくだろう」と予言しました。

外来種が在来種を上回る

 その予言通り、1960年代には西洋タンポポは日本各地で見られるようになりました。今では、タンポポのうち8割は外来種、あるいは外来種と在来種の交雑種が占めています。西洋タンポポは開発が進んだ都市部周辺で在来種に取って代わり、日本タンポポは昔から環境が変わらない、良質な土壌の郊外、田畑、森などで劣勢ながらも頑張っています。それぞれ特性に応じて、ほぼ棲み分けが出来ているようです。

春の花から年中いつでも咲く花へ

 日本タンポポは春の短い間だけ咲きますが、西洋タンポポは年中いつでも花をつけます。初等科国語の教科書が出版されたのは1941年。この頃は西洋タンポポはまだ少なかったので、人々は日本タンポポを見て「タンポポは春に咲く花」と思い込んでいたのでしょう。その後、西洋タンポポが増えるにつれて、タンポポは夏や秋にも当たり前のように見かける花になっていきました。

外来種と在来種の違い

 在来種と外来種は、ちょっと見ただけでは区別がつきません。見た目の大きな違いは、西洋タンポポ=写真左側=は花の根本を包んでいる緑色の総苞片(そうほうへん)が外側へ反り返り、日本タンポポ=写真右側=は反り返っていないということぐらいです。

西洋タンポポは悪い花?

 環境省は西洋タンポポを「日本の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種」として生態系被害防止外来種リストに指定しています。西洋タンポポが悪者にされたような感じがしますが、外来種は全て悪いという訳ではありません。

 例えば、クローバーの別名で知られるシロツメクサ。明治時代に家畜の飼料として外国から日本に持ち込まれた帰化植物です。それが今では、地球を豊かにする緑化資材として用いられています。「四つ葉のクローバーを見つければ幸運が訪れる」という伝説も定着し、身近な、親しみのある植物になりました。

日本タンポポも西洋タンポポも

 タンポポも、外来種が在来種の生態系を変えたのは確かですが、どちらも可愛い花であることには違いありません。タンポポに季節感がなくなったのは少し寂しい気もしますが、ものは考えよう。年中楽しめる、より身近な花になったとも言えるでしょう。

※参考図書
「タンポポ ハンドブック」(著者:保谷彰彦、発行所:文一総合出版)
「日本のタンポポとセイヨウタンポポ」(著者:小川潔、発行所丸善出版)
※参考サイト
「レファランス協同データベース『よみかた 第3』(文部省編 昭和16年)初等科国語第三学年」
「生態系被害防止外来種リスト‐環境省」
「社会対話・協調推進オフィス 五箇さんに聞く!“外来種”は悪者?」

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第42回:沈丁花の希望の香り

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2021.2.1

第42回:沈丁花の希望の香り

 穏やかな日もあるものの、まだまだ冷え込む日が続きます。この冬は寒さにパンデミックも加わり、ことさら厳しい季節になりました。あと何日耐えれば、暖かくなるだろうか?いつになったら、感染症は収束するだろうか?指折り数えるようにして、踏ん張る毎日です。

マスク越しでも匂う花

 去年の2月は3日に横浜港に接岸したクルーズ船「ダイアモンド・プリンセス」で新型コロナ感染症がまん延し、日本を震撼させました。今にして思えば、パンデミックの序章に過ぎなかった訳ですが、この頃からマスクをする人が急激に増えました。
 クルーズ船の乗客全員が下船した後ですから、2月も下旬になっていたでしょう。マスクをして公園を歩いていると、どこからとなく甘くて爽やかな香りがして、見回してみると沈丁花(じんちょうげ)が咲いていました。「この花はマスク越しでも匂うんだ」と驚いた記憶があります。

三大香木は香りで居場所が分かる

 春は沈丁花、夏はクチナシ=写真左側=、そして秋はキンモクセイ=写真右側=。香りの強い花をつける、この3株は三大香木と言われています。いずれも、街路樹や公園樹、庭木などとして時折り見かけますが、花よりも先に香りで居場所が分かります。茶席では、沈丁花は強い香りがお香の邪魔をすることから、禁花とされています。

室町時代の文献に「沈丁華」

 ジンチョウゲ科の沈丁花は高さ1mほどの常緑の低木で、2月から4月にかけて枝先に白や赤、桃色の小さな花を塊になってつけます。
 原産地は中国。一条兼良が年中行事や各種事物について記した『尺素往来(せきそおうらい)』(1489年)に「沈丁華」の記載があります。これが文献での初出であることから、室町時代には日本でも栽培されていたことになります。

沈香のような芳香と丁子に似た花

 同じジンチョウゲ科の香木「沈香(じんこう)」=写真左側=のような芳香があり、フトモモ科の「丁子(ちょうじ、クローブ)」=写真右側=に似た花をつけることから、それぞれの一字をとって「沈丁華」と名付けられました。その後、「華」は実物の植物を表す意味の「花」の表記に変わっていったと思われます。

日本の沈丁花の大半は雄株

 沈丁花はイチョウやキンモクセイと同じように、雌花が咲く雌株と雄花が咲く雄株が分かれている雌雄異株(しゆういしゅ)です。昆虫などが花粉を運んで受粉しますが、日本にある沈丁花の大半は雄株なので、実をつけず、挿し木で増やします。

感染症との戦いを励ます花言葉

 花言葉は、一年を通じて緑の葉をつけることにちなんで「不死」「不滅」「永遠」。感染症との戦いには、励みになる言葉です。
 この他、芳香のイメージから「歓楽」「甘美な思い出」「誘惑」などの花言葉も生まれました。

春と感染症の収束を予感させる香り

 去年に沈丁花に出会った公園を再び訪れました。沈丁花はツボミ=写真=をつけていましたが、まだ香りはなく、開花にはもう少し時間がかかりそうです。
〈明日咲くと思はせ振りの沈丁花〉(楯野正雄)
 沈丁花の香りが漂うようになれば、もう春はすぐそこ。今年は新しい季節だけでなく、感染症の収束も予感させる、希望の香りであってほしいものです。

※参考図書
「沈丁花」(著者:後藤たづる、発行所:日本随筆家協会)
※参考サイト
「みんなの趣味の園芸 NHK出版」
「くすりの博物館 薬草に親しむ」
「国立国会図書館サーチ 尺素往来」

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第41回:赤い実に願いを込めて

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2021.1.1

第41回:赤い実に願いを込めて

 コロナに明け暮れた2020年が終わり、新年が巡ってきました。「疫病が去って穏やかな年になりますように」と願い、縁起の良い花を求めて最寄りのホームセンターの園芸売り場に立ち寄りました。

赤い実は落語に出てくる名前

 入口の目立つ所に、赤い実を2、3個ずつつけた苗が置いてありました。立て札に「ヤブコウジ」=写真=と書いてあります。どこかで聞いたことのある名前だなと思って調べてみると、落語の「寿限無(じゅげむ)」に出てくる子供の長い名前の一節でした。
 名前の中ほどで出てくる「やぶらこうじのやぶこうじ」(「やぶらこうじのぶらこうじ」というパターンもあります)は、このヤブコウジのことです。縁起の良い植物ということで、子供の名前の一部にしたのでしょう。

十両、百両に万両

 ヤブコウジには「十両」の異名があります。隣には、十両によく似たカラタチバナが並べられていました。これは「百両」=写真左側=と呼ばれています。さらに、その隣には、同じよう赤い実をつけた「万両」=写真右側=も置いてありました。さすが金額が大きいとあって、大粒の赤い実がたわわについています。いずれも同じサクラソウ科ヤブコウジ属の常緑の低木です。

葉と実の補色のコントラスト

 十両、百両、万両とくれば、「千両は?」となります。探してみると、少し離れた所に置いてありました。千両=写真=だけはサクラソウ科ではなく、センリョウ科センリョウ属です。
 ちょっと見ただけでは、何両の実か見分けがつきません。しかし、よく見ると、葉の形が少しずつ違います。十両や万両は実を下向きにつけ、千両は上向きにつけています。それでも同じように見えるのは、葉の緑と実の赤の鮮やかなコントラストが共通しているからでしょうか。

ナンテンは縁起物の主役

 古来、赤はお目出度い色とされ、赤い実は縁起物として重宝されています。もう一つ、赤い実で忘れてならないのはナンテン(南天)です。十両や百両などとは違うメギ科ナンテン属。夏に白い花=写真左側=をつけますが、秋口から翌春にかけてつける赤い実=写真右側=や葉の方が好んで鑑賞される植物です。

難を転ずる木

 中国ではナンテンは赤い実を燭(ともしび)にみたてて「南天燭(なんてんしょく)」と呼ばれ、平安時代に日本に伝来した際に縮められて「南天」になりました。「難を転ずる」の「難転(なんてん)」の語呂合わせから、縁起の良い木とされ、厄除けやお正月飾りとして使われてきました。

ナンテンは良いこと尽くめ

 江戸時代中期に編纂された類書(百科事典)『和漢三才図会』には〈(南天を)庭に植えて火災を防ぐ。大へん効験がある〉と記されています。今でもナンテンを庭の鬼門(北東)の方角に植える風習は残っています。
 ナンテンの葉には防腐作用があり、赤飯=写真=やおせちにナンテンの葉が添えられることがあります。ナンテンの花言葉は、実が晩秋から初冬にかけて色づく姿にちなんで「私の愛は増すばかり」。それに「良い家庭」という花言葉もあり、良いこと尽くめです。

平凡でも穏やかな日々を

〈おもひつめては南天の実〉(種田山頭火)
 感染症の重苦しい空気が流れる中で、あれこれと思い悩む時、ナンテンの赤い実を見かけると、ふと希望が湧いてくるような気がします。
〈平凡な日々こそよけれ実南天(宇恵孝子)〉
 今年はコロナという難が転じて、以前の平凡でも平穏な日々が戻ってきますように!

※参考図書
「季節を知らせる花」(文:白井明大、発行:山川出版社)、「和漢三才図会」(編集:寺島良安、発行:東洋文庫)
※参考サイト
「WARAKUWEB 2020.01.05」「歳時記 南天の実」「花言葉‐由来」「ナンテンとはーみんなの趣味の園芸」「噺家 桂伸治オフィシャルサイト」

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福田徹(ふくだ とおる)

元読売新聞大阪本社編集委員。社会部記者、ドイツなどの海外特派員、読売テレビ「読売新聞ニュース」解説者、新聞を教育に活用するNIE(Newspaper in Education)学会理事などを歴任、武庫川女子大学広報室長、立命館大学講師などを勤めました。
花の紀行文を手掛けたのをきっかけに花への興味が沸き、花の名所を訪れたり、写真を撮ったりするのが趣味になりました。月ごとに旬の花を取り上げ、花にまつわる話、心安らぐ花の写真などをお届けします。

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第40回:紅花の咲く頃は~二十四節気と七十二候

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2020.12.1

第40回:紅花の咲く頃は~二十四節気と七十二候

 二十四節気(にじゅうしせっき)は、太陽の動きをもとに1年を春分、秋分などに24等分して季節を表しています。さらに、自然現象や動植物の動き、変化に合わせて細かく分けたものが七十二候(しちじゅうにこう)です。古代中国で考案され、江戸時代に日本の暦学者らによって日本の気候風土に合うように改訂されました。

本格的な冬の訪れ

 七十二候は年によって、日にちが若干ずれることがあります。今年は12月7日が、第六十一候「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」。本格的な冬の訪れです。夏や秋を謳歌(おうか)した草花に、もう生気はありません。

残菊から枯菊へ

 菊の節句(長陽の節句、旧暦の9月9日)を過ぎても咲いていたキクは「残菊(ざんぎく)」。残菊は12月にもなると花も葉もつけたまま立ち枯れて「枯菊(かれぎく)」=写真=になります。
 『枯菊となりて重さを失へり』(稲畑汀子)

風に揺らぐ枯れ尾花

 枯れて白っぽくなったススキの穂は「枯れ尾花」=写真=。枯れ尾花が冷たい風に吹かれて揺らぐ様を見ると、寂しさが募ります。
 『落日を背負いすぎたる枯尾花』(宇都宮滴水)
 『幽霊の正体見たり枯れ尾花』(故事ことわざ)

冬眠に備えるクマ

 第六十二候(12月11日)は「熊蟄穴(くまあなにこもる)」。クマが冬眠に入る頃です。この10月から11月にかけてクマが日本各地で相次いで出没し、騒然となりました。冬眠に備えて脂肪をつけようとしたクマが、食べ物を求めて人里までやってきたのでしょう。

息吹き始める新しい生命

 第六十四候(12月21日)「乃東生(なつかれくさしょうず)」の乃東は冬に芽を出し、夏に枯れる夏枯草(かこそう)=写真=の古名です。山野は一面、茶色っぽく枯れたようになりますが、新しい生命は静かに息吹き始めています。第六十六候(12月31日)は「雪下出麦(ゆきわたりてむぎのびる)」。降り積もる雪の下で、麦が芽を出します。

したたかに生き続ける

 厳しい自然の中で、動植物は息をひそめながらも、したたかに生き続けています。やがて春を迎え、第十一候(3月25日)で「桜始開(さくらはじめてひらく)」。第十八候(4月30日)で「牡丹華(ぼたんはなさく)」。そして、第二十三候(5月26日)は「紅花栄(べにばなさかう)」。紅花=写真=は咲き始めは黄色ですが、徐々に赤色が増してきます。
 『紅の花枯れし赤さはもうあせず』(加藤知世子)

来年に紅花が咲く頃は…

 新型コロナウィルスの感染が拡大していますが、この冬はワクチンの実用化は間に合いそうにありません。これから数か月は、歯を食いしばってインフルエンザとのダブル流行に万全の注意を払うしかありません。

 風の吹きすさぶ茶一色の枯野で枯菊や枯れ尾花を見ているような感覚にとらわれますが、やがては桜や牡丹も咲けば紅花も咲くようになります。複数のワクチンの高い有効性が臨床試験で確認され、完成はそう遠くないという報道もあります。冬を越して、色とりどりの花が咲く頃、日本は、世界はどのような状況になっているでしょうか。

※参考図書
「花の名前」(著者:高橋順子、佐藤秀明、発行所:小学館)、「だれでも花の名前がわかる本」(編集:講談社エディトリアル、発行所:講談社)
※参考サイト
「日本の暦 国立国会図書館」「国立天文台 暦WIKI」「2020年 二十四節気と七十二候」「婦人画報」
※「七十二候冬」の一覧表は婦人画報のホームページから転載

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第39回:パンデミック下の再生の匂い~ヒース(エリカ)の花

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2020.11.1

第39回:パンデミック下の再生の匂い~ヒース(エリカ)の花

 小説は、その時々の社会を反映します。F・H・バーネットが1911年に発表した名作『秘密の花園』の主人公の少女・メリーは、イギリス領だったインドで暮らしていましたが、両親がコレラで相次いで亡くなり、イギリスの叔父の屋敷に引き取られます。
 ペストは19世紀末から1910年代にかけて世界的に大流行しました。当時はメリーのような孤児は少なくなかったのでしょう。

花園と少女の再生の物語

 わがままで孤独で、ひねくれたメリーは牧童のディッコンらと知り合い、次第に明るい女の子になっていきます。ある日、屋敷の中で壁に囲まれた、荒れ果てた庭園を見つけます。枯れたように見えた花や草木がまだ生きていることを知り、ディッコンらと一緒に綺麗な花園に蘇らせることで、自らも成長するという“花園と少女らの再生”の物語です。

ヒースの匂いがする男の子

 二人が初めて出会った時に、メリーが抱いたディッコンの印象は次のように描かれています。《ヒースや草や木の葉のいい匂いがしました。この男の子は、そんなものでできてでもいるような感じがしました。メリーはその匂いがとても好きでした。》
 ヒースの匂いは、メリーの生まれ変わりを予感させるものでした。

「嵐が丘」の舞台にも

 ヒースにはイギリスやアイルランドの荒れ果てた大地と、その地に生える野草の二つの意味があります。野草の方は日本ではエリカと言った方が馴染みがあるでしょう。小説に出てくるヒースは、このエリカのことです。
 荒地に咲く姿から「孤独」「寂しさ」という花言葉が生まれました。エミリー・ブロンテの『嵐が丘』も、このヒースが茂るスコットランドの大地が舞台になっています。

エリカの花は鈴みたい

 ツツジ科エリカ属のエリカは600以上もの野生種があり、品種によって花期は異なります。多くは11月から翌年6月頃にかけて、高さ2mほどの低木を覆うように小さな花を咲かせます。その花は『秘密の花園』では《紫色の鈴みたい》と描写されていますが、他にも白、赤、ピンク、オレンジ、黄などの色もあります。
 原産地はヨーロッパ、アフリカです。日本では北海道での栽培が盛んで、函館市の道南四季の杜公園(写真)や札幌市の百合が原公園にはエリカが群生するヒースガーデンがあります。

再生を予感させる花

 ペストのパンデミック(感染症の世界的な大流行)から1世紀が過ぎ、世界は今、新型コロナウィルス感染症のパンデミックに襲われています。社会の混乱は続いていますが、政府は来年前半にワクチンの接種を始めることを目指していると報じられています。
 花屋の店頭に並び始めたエリカの近縁種・カルーナ=写真=に顔を近づけると、少し甘みのある優しい匂いがしました。 メリーの生まれ変わりを予感させた匂いは、パンデミックの終息と社会の再生も予感させているようです。

※参考図書
「秘密の花園」(作:フランシス・ホジソン・バーネット、訳:猪熊葉子、発行:福音館書店) 「『秘密の花園』ノート」(著:梨木香歩、発行:岩波書店) 「嵐が丘・上下巻」(著:エミリー・ブロンテ、訳:小野寺健、発行:光文社)
※参考サイト
「エリカとは‐みんなの園芸 NHK出版」 「HORTI by Green Snap」
※道南四季の杜公園のヒースガーデンの写真は同公園のホームページより転載

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第38回:新内閣に贈られた胡蝶蘭~花言葉のような政治を

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2020.10.1

第38回:新内閣に贈られた胡蝶蘭~花言葉のような政治を

 日本のリーダーが7年8か月ぶりに変わり、菅内閣が発足しました。大臣就任をお祝いする胡蝶蘭(コチョウラン)が東京・永田町界隈や大臣の地元の事務所などに次ぎ次ぎと運び込まれる映像がテレビで流れました=写真は2020年9月17日付け読売新聞朝刊=。胡蝶蘭は慶事や弔事の定番の贈り物と言えるでしょう。

原産地は熱帯地域

  ラン科コチョウラン属の胡蝶蘭は東南アジアの熱帯、亜熱帯の高温多湿の地域が原産で、日本には明治時代に伝わりました。当時はごく一部の上流階級が開花期の5~6月だけ楽しめる希少な花でしたが、今では栽培技術が進み、一年中楽しめる花になりました。

蛾と蝶

 学名はギリシャ語で「蛾のような」という意味のファレノプシス(Phalaenopsis)。日本では、その名の通り「蝶に似ている」ことから胡蝶蘭と名付けられました。胡蝶蘭の花言葉『幸福を運んでくる』は蝶が舞う姿から連想したものです。
 蝶は昼間に活動する綺麗な昆虫、蛾は夜間に活動する地味な色合いの昆虫というイメージがあります。しかし、生物分類学ではいずれも同じチョウ目(鱗翅目=りんしもく)に含まれます。地味な色合いの蝶もいれば、美しい羽根を持った蛾もいます。「綺麗な胡蝶蘭を蛾に例えるなんて」と驚くことはないようです。

贈り物に打って付けの花

 白やピンクなどのペダル(花弁)が左右に大きく開く様は優美、豪華で清潔感に溢れています。花持ちが良く、鉢植えの花は条件が良ければ2、3か月は咲き続けます。さらには、花粉は飛び散りにくく、匂いもほとんどしません。飾っておくのには、良いこと尽くめ。胡蝶蘭が贈り物として人気があるのはうなずけます。

地上ではなく樹木に根を張る

 ラン科植物には、地上で生きる地生ランと樹木に取り付いて生きる着生ランの2種類があります。胡蝶蘭は鉢植えのものしか見たことがないという方が多いでしょうが、もともとは高い樹木に根を張る着生ランです。熟成した実から落ちた種子は地面の上では発芽せず、樹木の表皮のひび割れたような所に落ちたものだけが発芽し、その根は表皮を這うようにして育ちます。
 木に胡蝶蘭を生ける着生栽培もありますが、一度は原産地で樹木に着生して咲いている自然の胡蝶蘭を見てみたいものです。

乾燥に強く、寒さに弱い

 胡蝶蘭は樹木に着生しますが、寄生する訳ではありません。水分は雨や霧から吸収します。少ない水分を出来るだけ蒸発させないよう、葉の形状を分厚く変えるなどして適応してきました。
 胡蝶蘭は生い立ちからして、乾燥に強く、寒さには弱い花なのです。胡蝶蘭にとっての室内での適温は18~25度。水やりは1週間~10日に1回、鉢植えの表面の水苔が乾いてからコップ1杯ほどの水を与える程度でよいとされています。

『幸福を運んでくる』政治を

 空調完備の大臣室は、胡蝶蘭にとっては居心地の良い環境に違いありません。これから長く咲き続ける胡蝶蘭を大臣の皆さんが見て英気を養い、国民に『幸福を運んでくる』政治に専念して頂きたいものです。

※参考図書
「NHK趣味の園芸No.564 コチョウランはもっと楽しめる」(編集:NHK,NHK出版、発行:NHK出版)、「NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12か月 コチョウラン」(著者:富山昌克、発行所:日本放送協会)、「コチョウラン 季節の手入れ」(著者:江尻光一、小島研二、発行所:家の光協会)
※参考サイト
「昆虫おもしろ話、実は奥深いチョウとガの違い(神保宇嗣/チョウ・ガ研究者)」 「原種胡蝶蘭の生息域と環境」

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