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花コラム

花コラム第103回:雪柳~見かけによらぬもの

プレミアムフラワーの花コラム

第103回:雪柳~見かけによらぬもの

2026.4.1

 春昼の日差しを返す雪柳(湯上稔子)
 公園の一角が眩いほどに白一色に染まっていました。雪柳(ユキヤナギ)です。柳のように枝垂れる枝に小さい無数の白い花が雪をかぶったように咲き乱れる花姿を見ると、名前の由来は聞かなくても分かります。

四季を通じて楽しめる

 雪柳は柳のように見えてもヤナギ科ではなく、バラ科シモツケ属の落葉低木です。春に直径7mmから1cmほどの小さな白い五弁の花を枝いっぱいに咲かせます。小さな花がお米のように見えることから、小米花(コゴメバナ)、小米柳(コゴメヤナギ)の別名もあります。
 原産地は日本と中国。日本では関東より西の本州、四国、九州の川沿いの岩場などに自生しています。秋になると赤みがかった色や黄色に紅葉し、四季を通じて楽しむことができます。丈夫な花なので、公園や庭園など様々な場所で植栽され、生け花やフラワーアレンジメントの花材としても人気があります。

作品に趣きを添える花

 雪柳は、いくつかの文芸作品に趣きを添える花として登場します。
 安西篤子の小説「愛おしく候」では、春先に主人公の小次郎が墓参する場面で『一抹の雪柳が、いましもまっ白に花をつけていた。』と雪柳はさりげなく登場します。村上勉は随筆で『寺の土塀のそばで、雪柳が白い流れのように続いていた。』と書いて、日本の春の風景を表現しています。
 泉鏡花の小説「雪柳」の中の一節『雪柳が白くこぼれるように咲いて、春の風にゆれていた。』は、女性の淡い恋情を重ね合わせたものでした。

庭に植えてはいけない

 雪柳は花をつける季節と小さな可憐な姿から、春の訪れや女性の美しさを象徴する花として描かれてきました。「こんな花なら身近で育てたいな」と思って調べてみると、ネットには「雪柳を庭に植えてはいけない!」という思いがけない記事がいくつも載っていました。

繁殖力が強い

 その理由は、雪柳は非常に繁殖力が強いことです。地面に落ちた種や土中に伸びた茎から、あちこちに芽が出て、庭全体が雪柳で埋まってしまうことがあります。枝が横に広がって、隣の敷地や道路にはみ出ることもあります。多くの本やサイトには「雪柳は手を掛けなくても成長する」と書いてあります。確かに成長はしますが、定期的に剪定するなどして手を掛けないと手に負えなくなってしまうのです。
 奈良市の海龍王寺は雪柳の名所として知られ、奈良県公式観光サイト「なら旅ネット」には満開の写真が掲載されています。高さは2m以上あるでしょう。見応えのある見事な雪柳ですが、これを民家の庭で栽培するとなると大変です。
 ※写真は「なら旅ネット」から転載

縁起が悪い?

 庭に植えてはいけない理由はまだあります。花が散ると小さな無数の花びらが広範囲に広がり、掃除に手間がかかります。さらには、雪柳は縁起が悪いという指摘もありました。幽霊が柳の下から出るというのは怪談のお決まりです。このイメージから連想した話かもしれませんが、そもそも雪柳は柳ではないので、縁起が悪いというのは誤解と言えるでしょう。

花も見かけによらぬもの

 雪柳の一つひとつの小さな花を見ると、か弱い感じさえします。そんな花がこんなにも生命力に溢れているというのは意外でした『人は見かけによらぬもの』と言いますが、人に限ったことではないようです。

※参考図書
「愛おしく候」(著者:安西篤子、発行所:講談社)
「鏡花全集 巻24」(著者:泉鏡花、発行所:岩波書店)
「水上勉集 新潮日本文学」(著者:水上勉、発行所:新潮社)

※参考サイト
「わたしの花図鑑」
「みんなの趣味の園芸 ユキヤナギ」
「園芸基本の木」
「はてなブログ」
「なら旅ネット」

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コラムライターのご紹介

福田徹(ふくだ とおる)

元読売新聞大阪本社編集委員。社会部記者、ドイツなどの海外特派員、読売テレビ「読売新聞ニュース」解説者、新聞を教育に活用するNIE(Newspaper in Education)学会理事などを歴任、武庫川女子大学広報室長、立命館大学講師などを勤めました。
花の紀行文を手掛けたのをきっかけに花への興味が沸き、花の名所を訪れたり、写真を撮ったりするのが趣味になりました。月ごとに旬の花を取り上げ、花にまつわる話、心安らぐ花の写真などをお届けします。

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花コラム第102回:ツバキ~愛おしく感じる所以

プレミアムフラワーの花コラム

第102回:ツバキ~愛おしく感じる所以

2026.3.1

 梅の香が漂い、桜の芽が膨らみ始めました。穏やかな天気に誘われてぶらぶら歩くと、ツバキ(椿)がつややかな赤い花をつけていました。目立つ花ではありませんが、どこか懐かしく、愛おしいという気持ちが湧いてくる花です。

日本人に愛され、様々な作品に

 ツバキ科ツバキ属の常緑高木の椿は、秋から春にかけて赤のほか白やピンクの花を咲かせます。葉が厚い「厚葉木(あつばき)」、あるいは葉に艶がある「艶葉木(つやばき)」が転じて「つばき」になったと言われています。
 原産地は日本や韓国、中国などアジア東南部。昔から日本人に愛され、様々な作品に取り上げられてきました。日本書紀には堅い椿の木が武器になったことが記され、万葉集では9首の歌に椿が詠み込まれています。

「椿三十郎」「椿の庭」「五辯の椿」

 数々の映画や文芸作品でも、椿は重要な役回りで登場します。三船敏郎が主演した映画「椿三十郎」(1962年制作)では椿は襲撃の合図に使われ、祖母と孫娘の交流を描いたドラマ「椿の庭」(2020年公開)では祖母は椿の咲く庭を眺めながら亡くなります。
 山本周五郎の時代小説「五辯の椿」は、無垢の乙女が、亡き父を裏切って苦しめた淫乱な母と母の遊び相手の男を次々と殺して復讐する物語です。殺害現場には紅い椿の一片の花びらが残されます。椿は父親が愛した花。5枚の花びらは娘が復讐の対象にした5人を暗示しています。

欧州では「冬のバラ」

 椿は18世紀にヨーロッパへ伝わり、19世紀には「冬のバラ」として社交界でもてはやされました。椿の大流行を受けて、フランスの作家デュマ・フィスは1848年に小説『椿姫』を書き上げました。5年後、この小説をもとにヴェルディが作曲したのが傑作オペラ「椿姫(La Traviata)」です。

花から花へと飛び回る椿姫

 主人公の高級娼婦ヴィオレッタは椿を愛し、いつも椿の花を身に着けています。青年貴族アルフレードに愛を告白されると、椿の花を渡して「この花が枯れる頃にまたお会いしましょう」と約束します。そして有名なアリア「ああ、そはかの人か~花から花へ」では『死ぬまで快楽の花から花へと飛び回り 昼も夜も自由に新しい喜びに思いをはせるのよ♪』と歌い上げます。オペラは、結核を患ったヴィオレッタがアルフレードに見守られながら亡くなるところで幕を閉じます。

限りある生命を象徴する花

 椿はサクラのように咲き誇るのではなく、むしろ控えめに咲いて日本の暮らしに息づき、日本人の感性に深く結びついてきました。一方、ヨーロッパでは「冬のバラ」と言われるように、東洋の華やかな花と思われてきました。国が変われば花のイメージも変わってきます。しかし、洋の東西とも、椿が限りある生命の終わりを象徴しているという点では共通しています。
 春咲きの椿の開花期間は5~7日間と比較的短く、最後は花の付け根から丸ごと落ちる。こうした生態が、椿のイメージに関わっているようです。限りある生命だから、なおさら愛おしく感じる。椿が愛される所以でもあるのでしょうか。

※参考図書
「NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12か月 ツバキ、サザンカ」(著者:桐野秋豊、箱田直紀、発行所:日本放送協会)
「五辯の椿」(著者:山本周五郎、発行所:角川春樹事務所)
「椿姫」(著者:デュマ・フィス、訳者:西永良成、発行所:角川文庫
「山の音」(著者:川端康成、発行所:新潮社)

※参考サイト
「椿姫(La Traviata)第一幕 アリア(ヴィオレッタ)『そは彼の人か~花から花へ』」
「婦人画報デジタル 椿の花言葉」
「映画.com椿三十郎」
「映画.com 椿の庭」

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福田徹(ふくだ とおる)

元読売新聞大阪本社編集委員。社会部記者、ドイツなどの海外特派員、読売テレビ「読売新聞ニュース」解説者、新聞を教育に活用するNIE(Newspaper in Education)学会理事などを歴任、武庫川女子大学広報室長、立命館大学講師などを勤めました。
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花コラム第101回:クリスマスローズ~名は体を表さず

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第101回:クリスマスローズ~名は体を表さず

2026.2.1

 野や山に咲く花はめっきり少なくなり、モノトーンの光景が繰り広げられています。そんな冬枯れの季節に、クリスマスローズはそっと彩りを添えています。

バラではない

 クリスマスローズはキンポウゲ科ヘレボルス属(クリスマスローズ属)の多年草です。ローズの名前がついていますが、バラの仲間ではなく、クレマチスやアネモネなどの仲間です。ヘレボルスは正式な名前(学名)で、白や赤、黄、紫、緑、灰色など多彩な花=写真=を咲かせます。花びらのように見える部分は花弁ではなく、萼片(がくへん)。葉の一部が変化して色づいたものなので散りにくく、2~3か月もの間、鑑賞できます。

色、形、模様はバラバラ

 最寄りの園芸店をのぞくと、店頭の一番目立つところに「クリスマスローズ」の特別コーナー=写真=が設けられていました。10種類近くの花が並べられていましたが、見た目は「違う品種の花では?」と思うほどバラバラです。種で増やすので、色や形、模様が安定しません。同じような花が咲かないというのが、この花の大きな特徴です。おまけに耐寒性があって育てやすいとあって、人気が高いというのも頷けます。

花の歴史は古い

 原産地はヨーロッパ。花の歴史は古く、世界薬用植物百科事典には「紀元前1400年には精神病の治療に使われていた」と記されています。学名のヘレボルスは、ギリシャ語の「ヘレン(殺す)」と「ボア(食べ物)」が語源です。葉や根茎に毒があり、摂取すると嘔吐や腹痛、下痢、呼吸麻痺、精神錯乱、心停止などをひき起こします。昔は強心剤や下剤などとして使われこともありますが、今では毒性が強過ぎるので薬としては使われていません。

花の盛りはクリスマス・シーズンが過ぎてから

 クリスマスの名前が付いているのに、クリスマスの頃には余り見かけません。花の盛りはクリスマス・シーズンが過ぎた1月から4月にかけてです。どうして名前と花期がずれているのでしょうか?
 原産地のヨーロッパでは「Christmas rose」は原種系のヘレボルス・ニゲルだけを指します。この花はクリスマスの頃にバラのような花が咲かせることから、クリスマスローズと名付けられました。江戸時代の後半に渡来しましたが、日本ではヘレボルス・ニゲルだけでなく、2月から4月にかけて咲くヘレボルス・オリエンタリスなども含めてクリスマスローズと呼ばれるようになりました。

名前と実態が合わない

 それにしても、これほど名前と実態が合わない花は珍しいのではないでしょうか。「クリスマス」と「ローズ」を組み合わせた名前の花なのに、クリスマスの頃には殆ど見かけず、バラ科の花でもない。名前が人や物の実体を表していることを「名は体を表す」と言いますが、この花に関しては名は体を表していません。それなのに、クリスマスローズの名前は違和感なく受け入れられています。それだけ魅力があり、普及しているということなのでしょう。

まさに“冬の貴婦人”

 寒風の中でうつむき加減に、ひっそりと佇む姿から、クリスマスローズは“冬の貴婦人”とも言われます。この愛称の方は、名は体を表しているようです

※参考図書
「新版クリスマスローズ」(著者:横山直樹、発行所:誠文堂新光社)
「もっとクリスマスローズ NHK趣味の園芸」(編集人:阿川峰哉、発行所:NHK出版)
「世界薬用植物百科事典」(原著:アンドリュー・シェヴァリエ、出版社::誠文堂新光社)
「すごい毒の生きもの図鑑」(監修:船山信次、発行所:中央公論新社)

※参考サイト
「グリーンファームラボ」
「LOVEGREEN」
「家庭画報.com 春に咲く花なのにクリスマスローズというのはなぜ?」

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福田徹(ふくだ とおる)

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花コラム第100回:ヒイラギ(柊)~柊に守られ穏やかな一年に

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第100回:ヒイラギ(柊)~柊に守られ穏やかな一年に

2026.1.1

 2026年が明けました。昨年は世界で対立・紛争が絶えず、国内では災害が相次ぎ、物価は高騰、日々の生活に不安がつきまといました。そこで年の初めのコラムは「今年こそは争いのない、平穏な一年になりますように!」との願いを込めて、邪気を払う縁起木であるヒイラギ(柊)をテーマにしました。

葉の刺で身を守る

 ヒイラギはモクセイ科モクセイ属の常緑広葉樹で、葉=写真左側=は肉厚で光沢があり、先端と縁に鋭い刺(とげ)が付いています。動物に食べられないよう自衛していると言われています。
 花=写真右側=は特徴的な葉と比べると印象が薄いのですが、11月から12月にかけて花径5mmほどの白い小さな花をつけます。散歩道で見かけ、鼻を近づけると、キンモクセイの香りを柔らかくしたような芳香がしました。

柊の語源は

 キヘンに冬と書いて「柊」。冬を代表する樹木という意味かと思っていましたが、調べてみると違いました。葉の刺に触れると痛みます。そこで、痛いという古語「疼(ひいら)ぐ」が語源になりました。ヒイラギには「疼木」という漢字もあります。

邪気の侵入を防ぐ

 古くから庭の北東(表鬼門)にヒイラギを植えると邪鬼の侵入を防ぐと信じられてきました。節分に焼いた鰯の頭をヒイラギの枝に刺して玄関先に飾る柊鰯(ひいらぎいわし)=イラスト=という風習は日本各地で残っています。鰯の匂いが鬼を誘い、ヒイラギの葉の刺が鬼の眼を刺す。あるいは、鬼が匂いと刺を恐れて近寄らないとされています。伊勢神宮のお膝元で売られている注連縄(しめなわ)=写真=にヒイラギの葉があしらわれているのも、魔除けのためです。

刺が正のイメージに

 ヒイラギが縁起木になったのは、ひとえに刺のある葉の形状によるものでしょう。しかし、一般的には刺は負のイメージにつながります。態度や言葉がきつい様子は「とげとげしい」。口調や目つきが厳しく、意地悪い態度は「とげがある」。「苛立つ」の「苛」は草木の刺を意味する言葉です。ところが、ヒイラギの刺は私たちを守ってくれる正のイメージを呼び起こします。

川端康成が愛した柊模様

 川端康成は京都の老舗旅館「柊家」を常宿にしていました。紀行文「柊家」の中で『染分けの色のやはらかい柊模様の掛布團に、白い清潔なおほいがかけられるのを見てゐると、なじみの宿に安心する。』『ゆかたばかりでなく、座布團、湯呑や飯茶碗その他の瀬戸物にまで柊の模様がついてゐるのだが、その柊は目立たない。』と書き、ヒイラギの模様に安らぎを覚えています。

年老いると丸くなる

 固くてしっかりした葉に刺をまとって自らを守るヒイラギには凛とした佇まいさえあります。刺があるから敬遠されるのではなく、刺があるから親しまれる。ヒイラギは不思議な魅力を持つ木です。
 その葉の刺は老木になると次第にとれていき、縁は丸くなって先端だけに刺を持つようになります。まるで、人が歳月とともに円熟して、丸くなっていくかのようです。
 葉が丸くなったヒイラギのある家は「ヒイラギに守られてきた家だ」と言われます。2026年が「ヒイラギに守られた一年だった」と言われる年になりますように!

※参考図書
「川端康成全集第二十七巻(著者:川端康成、発行所:新潮社)」
「すごい植物図鑑」(監修:稲垣栄洋、発行所:株式会社カンゼン)

※参考サイト
「語源由来辞」
「漢字/漢和/語源辞典」
「鬼を寄せ付けない?古来から伝わる『柊魔除け』の絶対的パワー」
「みんなの趣味の園芸」

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花コラム第99回:ルクリア~優しい、上品な、甘い香りを求めて

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第99回:ルクリア~優しい、上品な、甘い香りを求めて

2025.12.1

 冬の訪れとともに花は少なくなり、野山や街中の彩りが褪せていきます。この季節を待ちかねたように、ルクリアは桜色の花を咲かせます。
 和名は「アッサムニオイザクラ(匂い桜)」。アッサムは原産地のインドの地名。香りが高い、サクラのような花ということです。まるで春を先取りしたような花です。こんな花が身近にあれば、寒くてもホッコリした気持ちになれるのにと思ったのですが……。

穏やかな気候のところで自生

 アカネ科ルクリア属のルクリアは常緑の低木で、11月から1月にかけてピンクや白の花十数個を房のようにまとまって咲かせます。花の名前は、原産国で「ルクリア・スワ」と呼ばれていたことに由来します。花言葉は「匂いたつ魅力」「優美な人」「清純な心」。
 自生地は、冬は寒過ぎず、夏は暑過ぎない穏やかな気候のところです。日本の気候は冬は寒くて夏は蒸し暑いので、ルクリアの生育には適していませんが、半世紀ほど前から山梨県の富士山の北麓で栽培されています。この地域が自生地に近い環境なのでしょう。

一度嗅いだら忘れられない香り

 日本名に「匂い」が入っているように、中国名の「滇丁香」にも「香」の字が入っています。それほど香り高いということです。春のジンチョウゲ、夏のクチナシ、秋のキンモクセイが三大香木と言われますが、これに冬のルクリアを加えて、4大香木と呼びたくなります。
 では、どんな香りがするのでしょうか。本やサイトで調べると「一度嗅いだら忘れられないほど記憶に残る香り」「甘い芳香」「ユリの花に似た甘い香り」「上品な芳香」「優しい芳香」「強い芳香」など様々な言葉で表現されています。

ルクリアが見つからない

 この香りを自分の鼻で確かめてみたい。そこで、近郊の植物園に聞いてみましたが、ルクリアはありませんでした。最寄りの園芸店に片っ端から問い合わせると、ほとんどの店は「取り扱っていません」。中にはルクリアを知らない店員さんもいました。ただ一軒、入荷のあった店は「数が少ないので、すぐに売れてしまいました」ということでした。通信販売でなら入手できるかもしれませんが、ルクリアは流通量の少ない、希少な花だったのです。

日本では適地は少ない

 日本には原産地のように夏は直射日光が余り差さず、風通しが良くて涼しく、冬は3度以下にならないような温かいところは、そうはありません。ルクリアの咲いているところは、生産化に成功した富士山麓の他には静岡県伊東市の神祇大社=写真=など数えるほどしかありません。神祇大社では、お正月頃に境内のルクリアが満開になり、参拝客を楽しませてくれるそうです。

ルクリアと”伊豆の瞳“のあるところ

 伊東市は今、市長の学歴詐称問題で揺れ、注目を集めていますが、10万年前の噴火でできた美しい火口湖「一碧湖」=写真=など観光資源の豊かな地域です。一碧湖は伊豆の山々を蒼い湖面に映し出すことから”伊豆の瞳“と呼ばれています。ルクリアの香りを求めて、一度は訪れたいと思いました。

※参考サイト
「みんなの趣味の園芸」
「ボタニックガーデン」
「ヤサシイエンゲイ」
「はなたま」
「ボタニカログ」
「Izu Letters 伊豆の観光情報サイト」
※神祇大社の写真は同大社のインスタグラムから、一碧湖の写真は「伊豆・伊東観光ガイド」から転載しました。

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花コラム第98回:ネリネ~見た目が9割

プレミアムフラワーの花コラム

第98回:ネリネ~見た目が9割

2025.11.1

 人と人とのコミュニケーションにおいては、言語による情報が7%、聴覚による情報が38%、そして視覚情報が55%の割合で影響を与える―。心理学の『メラビアンの法則』によると、私たちは非言語情報に大きく影響されます。視覚情報の影響はもっと大きく、「見た目が9割」という言葉もあります。
 人は見た目で判断することが多いという法則ですが、花は話したりはしないので、なおさら見た目で評価されることになります。その「見た目」で、ネリネは数奇な運命をたどりました。

彼岸花に似ていることが災い

 ネリネは秋から冬にかけて、白や赤、オレンジなどの花を咲かせる球根植物です。原産地は南アフリカ、ヨーロッパで品種改良が進み、日本へは大正時代初期に渡来しました。
 小さなユリの花が集まって一つの花になったような形をしており、おしべとめしべが外に飛び出した様子は彼岸花に似ています。このことが、ネリネに災いしました。

縁起の悪い花?

 ネリネは当初は見た目で彼岸花=写真=の一種と考えられていました。彼岸花は前々回のコラムでご紹介したように、墓場に咲く花として忌み嫌われることがあります。その連想からネリネも縁起の悪い花と思われて敬遠され、先の戦争中には多くの品種が途絶えてしまいました。
 二つの花は同じヒガンバナ科ですが、彼岸花はヒガンバナ属でネリネはネリネ属。彼岸花には毒がありますが、ネリネにはありません。開花時期や葉のつき方なども違い、この二つは別の花です。しかし、似ているということだけで、ネリネには彼岸花の悪いイメージが付いて回ることになったのです。

妖精のような花

 翻って、ヨーロッパではネリネのイメージは全く異なりました。花の名の由来はギリシャ神話に登場する美しい水の妖精「ネーレーイス」。妖精のように美しい花ということです。花びらは光沢があり、日差しを受けるとダイアモンドのようにキラキラと輝く姿から「ダイヤモンドリリー」とも呼ばれます。花言葉も「輝き」「華やか」「かわいい」「幸せな思い出」など明るいイメージのもので、ウェディングブーケにも使われる人気の花です。

評価は一変した

 日本ではネリネは絶滅する恐れもありましたが、広瀬巨海(ひろせ・おおみ)氏ら熱心な園芸家らの努力で球根は引き継がれ、花のイメージは次第に良くなっていきます。そして今では、ネリネの評価は一変しました。

 私が愛読している『趣味の園芸』は、2023年8月号で「輝く花 ネリネ」を特集しました=写真=。「繊細なラメをちりばめたようなきらめく花びらが美しい」などと紹介。「ネリネのいいね!」と題して、「美しさが長もち」「土も肥料も少量でOK」「植えっぱなしで育つ」「20年以上長生き」「病気や害虫に強い」などと良いところを列挙し、美しいだけでなく、育てやすいことも強調しています。

「見る目」と「見た目」

 ネリネそのものは変わらないのに、時の流れとともに評価はゴロっと変わりました。海外での高評価に影響されて、「よくよく見れば美しい花だ」と気付いたということなのでしょうか。それに、彼岸花とは別の花だという認識が広がったこともあるでしょう。
 人々の「見る目」が変われば、同じ「見た目」の花のイメージも変わっていきます。花だけでなく、人の評価にも通じることかもしれません。

※参考図書
「趣味の園芸」2023年8月号(編集:日本放送協会、発行:NHK出版)
「人は見た目が9割」(著者:竹内一郎、出版:新潮社)

※参考サイト
「BEGINNERS GARDEN」
「SPIBRE」
「春夏秋冬「AGSコラム ネリネの基礎知識」
「あわひなる 花屋全史 手稿」

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花コラム第97回:イヌサフラン~可愛い犬が悪者にされた

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第97回:イヌサフラン~可愛い犬が悪者にされた

2025.10.1

 10月に入ると、ようやく秋の気配が漂い、道端や花壇を彩る花は鮮烈な色から落ち着いた色へと変わりつつあります。そんな秋の花の中で、少し変わった花姿をしているのがイヌサフランです。
 春につけた葉が夏に枯れ落ちた後、秋になって地表から突き出た花径に紫やピンク、白色の可愛い花を咲かせます。まるで花径を地面に突き立てたようです。

変わっている花姿、花言葉、名前

 花姿だけでなく、「私の最良の日々は過ぎ去った」という花言葉も変わっています。この由来については、コラムの第37回で書きましたが、この花には変わっていることがもう一つあります。イヌサフランという名前です。

 イヌサフラン科多年草のイヌサフラン=写真左側=はサフランの名前が付いていますが、アヤメ科のサフラン=写真右側=とは全く別の植物です。花の形はサフランに似ていますが、サフランのように香辛料にはなりません。ならないどころか、球根にはコルヒチンという猛毒物質が含まれています。コルヒチンは痛風の薬にもなりますが、誤食すると下痢や呼吸困難を発症します。先月には、岡山県でイヌサフランの球根をタマネギと間違えて食べた男性がなくなっています。

犬が悪いもののたとえになった

 イヌサフランはサフランと区別するために、頭に「イヌ」が付けられました。イヌダテ、イヌマキ、イヌザンショウなどのように、「イヌ」が植物の名前の接頭語になると、元の品種より形や材質が劣り、役に立たないという意味になります。
 「イヌ」が悪い意味で使われるのは植物に限りません。「犬死(いぬじに)」は役に立たない死に方、「犬畜生」は不道徳な人を罵る言葉、「負け犬」は競争に敗れた意気地のない人、「犬侍」は武士道をわきまえない侍……。犬はどうして、こんなに悪いたとえにされるのでしょうか?

「犬は不潔だ。犬は嫌だ」

 太宰治の小説『畜犬談』に次のような記述があります。《ただひたすらに飼主の顔色をうかがい、阿諛追従(あゆついしょう)てんとしてはじず、ぶたれても、きゃんといい尻尾まいて閉口して見せて、家人を笑わせ、その精神の卑劣、醜怪、犬畜生とはよくもいった。(中略)思えば、思うほど、犬は不潔だ。犬はいやだ。》
  ※阿諛追従=こびへつらうこと
  ※写真は青空文庫のホームページから転載

犬は人間の良きパートナー

 犬は何千年もの昔から、狩猟の手伝いをしたり番犬になったりして人間と共生してきました。そして今は空前のペットブーム。外を歩けば、必ずと言っていいほど犬連れの人とすれ違います。私も犬は大好きで、可愛い愛犬にどれだけ慰められているか分かりません。
 ですから、犬を激しく罵倒する太宰の気持ちは分かりません。「イヌ」が悪い意味の接頭語になることも解せません。時の流れとともに、人間と犬との関係が大きく変わってきたということなのでしょう。

20余年前までは野良犬が徘徊

 太宰が『畜犬談』を著したのは1939年。当時は野良犬に噛まれて、狂犬病でなくなる人は数多くいました。狂犬病の予防注射などを義務付けた狂犬病予防法が公布されたのは1950年。この頃になっても、室内で犬を飼う人は少なく、野良犬は街中を徘徊していました。保健所が野良犬の保護に乗り出し、野良犬がほぼいなくなったのは、この20数年のことです。

鑑賞用の花の名前には出来ない

 イヌサフランはヨーロッパから北アフリカが原産で、日本へは明治時代の初期に渡来しました。この頃は犬のイメージは余り良くなかったことから、「イヌ」が悪い意味で付けられたと思われます。同じ花がヨーロッパで “裸の貴婦人”と呼ばれているのとは大違いです。
 イヌサフランは正式な和名ですが、園芸用としては学名「Colchicum autumnale」をもとにした「コルチカム」の名前で流通しています。さすがに「イヌサフラン」を鑑賞用の花の名前にするのは憚られたのでしょう。

※参考図書
「畜犬談 伊馬鵜平君に与へる」(青空文庫)
「走れメロス」(著者:太宰治、発行所:ポプラ社)
「植物による食中毒と皮膚のかぶれ」(著者:指田豊と中山秀夫、発行所:少年写真新聞社)

※参考サイト
「BOTANICA」
「GARDEN STORY」
「読売新聞オンライン2025/9/12 イヌサフランを食べ男性死亡」
「農林水産省 狂犬病予防法」
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福田徹(ふくだ とおる)

元読売新聞大阪本社編集委員。社会部記者、ドイツなどの海外特派員、読売テレビ「読売新聞ニュース」解説者、新聞を教育に活用するNIE(Newspaper in Education)学会理事などを歴任、武庫川女子大学広報室長、立命館大学講師などを勤めました。
花の紀行文を手掛けたのをきっかけに花への興味が沸き、花の名所を訪れたり、写真を撮ったりするのが趣味になりました。月ごとに旬の花を取り上げ、花にまつわる話、心安らぐ花の写真などをお届けします。

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花コラム第96回:悪女か仏さまか~彼岸花は両極端なイメージを併せ持つ

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第96回:悪女か仏さまか~彼岸花は両極端なイメージを併せ持つ

2025.09.1

 各地で観測史上最高の気温を記録した、うだるような8月が終わりました。「暑さ寒さも彼岸まで」。例年なら、お彼岸の頃に道端や土手、あぜ道などに咲く彼岸花(ヒガンバナ)を見て「秋めいてきたな」と感じるものですが、今年は汗をかきながら9月20日の彼岸入りを迎えることになるかもしれません。

稀有な形の花

 彼岸花はヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草で、曼珠沙華(まんじゅしゃげ、まんじゅしゃか)とも呼ばれます。これは、「赤い花」を意味するサンスクリット語に由来します。
 花は稀有な形をしています。おしべとめしべは花びらの中にあるのが一般的ですが、彼岸花のおしべとめしべは花びらより大きく、外側へ大きく突き出ています。花が咲いているときは葉がなく、葉は花が枯れた後に出てきます。花と葉を同時に見られないことから、「葉見ず花見ず」と言われます。

悪女の微笑みのようだ

 彼岸花をコラムのテーマにしようかと思ったことが何度かあるのですが、ためらってきました。余り良いイメージがわかなかったからです。作家の太田治子も随筆で書いています。『彼岸花は幼い頃から私にとって苦手な花だった。何よりもまず、あのぴんぴんとそり返った赤い花びらがとても恐く感じられた。悪女の微笑のようだと思った。』

毒を持つ花

 彼岸花に負のイメージが付いて回るのはどうしてでしょうか?太田治子が書いたように確かに花の形は変わっていますが、ユニークで魅力的と感じる人もいるでしょう。見た目よりも、花の生態と名前がイメージに関係しているようです。
 彼岸花の茎に含まれるアルカロイドを経口摂取すると下痢や腹痛、時には中枢神経の麻痺を引き起こすことがあります。この花には有毒植物というイメージが付いて回ります。

「彼岸」から連想するものは

 有毒植物であることから、害獣対策として墓地に植栽され、「お墓の花」というイメージも出来ました。さらに彼岸花の名前の由来になった「彼岸」には、この世の「此岸(しがん)」に対して、悟りの開けたあの世という意味があります。こうしたことから、彼岸花の名前が死を連想させることもあるのでしょう。

別名、異名は1000以上

 別名、異名は1000以上ありますが、大半は暗いイメージのものです。墓花(はかばな)、葬式花(そうしきばな)、死人花(しびとばな)、地獄花(じごくばな)、幽霊花(ゆうれいばな)、火事花(かじばな)…。「彼岸花を持って帰ると、家が火事になる」という言い伝えもあります。

良いことが起こる前に降ってくる

 このように書けば、悪いこと尽くめの花のように思えます。しかし、このイメージは仏教の世界では180度変わります。
 仏教辞典には、彼岸花は『法華経が説かれる際の瑞兆として天から雨(あめふ)り、見る者の固い心を柔軟に摺るという』と記されています。おめでたいことが起こる前に天から降ってくる、縁起の良い花とされているのです。
  ※瑞兆(ずいちょう)=良いことが起こる前兆

まるで仏さまのよう

 陸前高田市の妙心寺派慈恩寺の住職・古山敬光さんはネットの法話で次のように書いています。『あの彼岸花が好きです。(中略)わずか1週間ほどと言うはかない生命ながら、時期を間違えず訪れ、ひととき目を楽しませてくれてサーッと去っていく。しかも、この秋彼岸の時期にですから、まるで仏さまのようです。』

余りにも違うイメージ

 彼岸花を作家は「悪女」に、住職は「仏さま」にたとえました。受け止め方は余りにも違います。彼岸花は花の形が珍しいだけでなく、正と負の両極端なイメージを併せ持つ稀有な花だったのです。

※参考図書
「岩波仏教辞典」(編者:中村元、福永光司、田村芳朗、今野達、発行所:岩波書店)
「花をめぐる物語 彼岸花」(著者:太田治子、発行所:かまくら春秋社)
「全国四季花めぐり」(発行者:八巻孝夫、発行所:小学館)

※参考サイト
「植木ペディア ヒガンバナ」
「臨黄ネット 法話 彼岸花」
「心の法話 九月(長月)彼岸花」
「彼岸花(曼殊沙華)はなぜ忌み嫌われるの?」
「彼岸花は不吉な花?」
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花コラム第95回:クレマチス~愛、乙女、それとも悪魔?

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第95回:クレマチス~愛、乙女、それとも悪魔?

2025.08.1

 旧暦に基づいて季節を分ける季語は、現在の季節感とは合わないこともあります。風を受けて涼やかに回る風車は“夏の風物詩”として紹介されることが多いのですが、季語は夏ではなく春でした。
 《あたゝかき風がぐるぐる風車(正岡子規)》

風車にそっくりな花

 その「風車」という別名を持つ花が、春からこの暑い夏、さらには秋にかけて咲くクレマチスです。見ての通り花の形は風車にそっくりです。クレマチスのツルは鉄のように固いことから「鉄線(鉄仙)」という別名もあります。

人気の高い「つる性植物の女王」

 キンポウゲ科センニンソウ属 (クレマチス属)のクレマチス=写真左側=は300以上の品種があり、背丈は50cmから3mを超えるものまで様々。大・中輪の一重の花が多く、花色は代表的な紫のほか青、白、ピンク、黄、青色など色彩豊かです。植栽として人気が高く、「つる性植物の女王」とも言われます。
 センニンソウ(仙人草)=写真右側=をクレマチスの別名として紹介したサイトもありますが、同じ花ではありません。センニンソウはクレマチスの原種で、果実に付く綿毛が仙人の髭に似ていることから、この名前が付けられました。

愛はからみつく?

 『365日誕生花の本』によると、ヨーロッパではクレマチスには「愛」という別名もあります。何かにからみついて成長する姿から付けられたと言われます。名付けた人は数ある愛の中でも《おどろおどろしい愛》を連想したようです。
 背丈が高く、涼しい日影を提供することから「乙女の木陰の休憩所」「旅人の喜び」などとも呼ばれます。「悪魔の髪型」という変わった別名もあります。花の中心部の雌しべの形が似ているということでしょうか?

ところ変われば別名も変わる

 日本では見た目で「風車」「鉄線」という別名が付けられましたが、ヨーロッパでは見た目からさらに想像をめぐらせ、ひとひねりした名前が生まれました。同じ花から「愛」「乙女」「悪魔」などと全く異なるイメージを思い浮かべたのも面白いところです。ところ変われば、名前の付け方も変わってきます。

クレマチスの季語は?

 ところで、品種によっては春、夏、秋と季節を問わずに咲くクレマチス(鉄線)の季語は? 調べてみると、夏でした。
 《てっせんは花火の花のたぐひかな(北村季吟)》
 《いつ来ても水打ってあり鉄線花(米田双葉子)》
 風車と違って、この季語は今の季節感に合いました。

※参考図書
「366日誕生花の本」(著者:瀧井康勝、発行所:日本ヴォーグ社)
「12か月栽培ナビ④ クレマチス」(著者:金子明人、発行所:NHK出版)
「色分け花図鑑 クレマチス」(著者:杉本公造、発行所:学研教育出版)

※参考サイト
「花の名前の不思議 / 前編」
「みんなの趣味の園芸 クレマチスとは」
「日本薬学会 センニンソウ」
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花コラム第94回:ハイビスカス~「花の命は短くて…」は誤解されていた

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第94回:ハイビスカス~「花の命は短くて…」は誤解されていた

2025.07.1

 見るも鮮やかな赤や黄色の花びらが大きく見開いて、ハイビスカスが夏本番を告げています。アサガオ、ヒマワリ、サルスベリ…。夏の花は色々ありますが、ハイビスカスは明るい南国ムードを醸し出します。

ハワイや沖縄の花

 ハイビスカスと言えば、フラダンスの女性の髪飾り=写真上側=でお馴染みです。2、30年前にハワイ旅行をした方なら、日本航空のホノルル便「スーパーリゾート・エクスプレス」の尾翼などに小鳥とともに大きく描かれていた赤い花=写真下側=を覚えていらっしゃるかもしれません。
 ハワイの州花になっていますが、日本でも沖縄市や鹿児島県与論町など沖縄、鹿児島の多くの自治体の花にも指定されています。

色とりどりの大小の花

 ハイビスカスはアオイ科フヨウ属の常緑の低木で、世界の熱帯から亜熱帯まで広く栽培されています。沖縄では庭木や道路沿いの緑化樹としてもよく見かけます。花の大きさは花径5㎝ほどのものから人の顔の大きさのものまであり、赤のほかピンク、黄、白、オレンジなど花色が多いのも特徴です。

元気いっぱいでも一日限りの命

 ハイビスカスの交配は20世紀初めからハワイで始められ、今では1万種ほどの園芸品種が作出されています。暑さに負けない、元気いっぱいの花というイメージがありますが、意外なことに大半の品種は咲いたその日に萎む「一日花」です。

詩の全容が分かる

 《花のいのちはみじかくて 苦しきことのみ多かれど》
 まるで一日花の命の短さを嘆いているような有名な詩です。作家の林芙美子(1903~1951)=写真は尾道市にある芙美子像=が色紙などに好んで書いたものですが、出典ははっきりしていませんでした。
 短い2行だけの詩ではないかとも言われていましたが、この詩の全容が16年前に分かりました。「赤毛のアン」の翻訳者・村岡花子さん(1893~1968年)の東京都内の遺族宅の書斎で、芙美子が原稿用紙に万年筆でしたためた詩が額に入れられて飾られていたのです。芙美子が親交のあった村岡さんに贈ったものと思われます。詩の全容は次の通りです。
  ※写真は「Dive! Hiroshima ひろしま公式観光サイト」から転載

「多かりき」ではなく「多かれど」だった

 《風も吹くなり 雲も光るなり 生きている幸福は 波間の鴎のごとく 漂渺(ひょうびょう)とただよひ  生きてゐる幸福は あなたも知ってゐる 私もよく知ってゐる 花のいのちはみじかくて 苦しきことのみ多かれど 風も吹くなり 雲も光るなり》
 『goo辞書』や『Weblio国語辞典』などでは《苦しきことのみ多かりき》と紹介されていますが、芙美子は《苦しきことのみ多かれど》と書いています。有名な言葉でも、間違って言い伝えられていることがあります。芙美子の詩もそうだったのでしょう。
  ※写真は芙美子がしたためた詩

嘆くだけでなく、幸福も詠った詩だった

 この詩は「女性を花にたとえ、楽しい若い時代は短く、苦しい時が多かったみずからの半生をうたったもの」(goo辞書)と解釈されてきました。しかし、この解釈は《花のいのちはみじかくて 苦しきことのみ多かれど》の2行に限ってのものでした。
 詩全体を通して読むと、芙美子は短く苦しい人生をいたずらに嘆いているのではありません。《風が吹き、雲が光る》世界で生きる幸せをも詠っていたのです。個性が強く、奔放に生きた芙美子は誤解されることもあったと言われますが、彼女が書いた詩もまた誤解されていたことになります。

 自らの短い命を知ってか知らでか、ハイビスカスは今日も明るく、美しく咲いています。

※参考図書
「NHK趣味の園芸 ハイビスカス」(著者:小川恭弘、発行所:NHK出版)
「2009年9月6日付け中国新聞」
「アンのゆりかご 村岡花子の生涯」(著者:村岡恵理、発行所:マガジンハウス)

※参考サイト
「レファレンス協同データベース」
「Dive! Hiroshima ひろしま公式観光サイト」
「アロハプログラム」
「AIRLINERS」
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