花コラム
花コラム 第74回:月下美人~儚くて、不思議な花
第74回:月下美人~儚くて、不思議な花 2023.10.1 「真っ白な大輪の花は、あけひろげた窓からのそよ風に、かすかにゆれていた。花びらの細長い白菊や白いダリアとも似つかぬ、不思議な花だった。夢幻に浮ぶ花のようだ」。 月下美人はサボテン科クジャクサボテン属に分類されます。棘がないのにサボテンの仲間というのは意外です。サボテンのように砂漠ではなく、中米のジャングルが原産地なので、水の蒸発を防ぐ棘は必要なかったということでしょうか。 月下美人は6月から11月にかけての夜、開花日が近づくと下向きのツボミが徐々に持ち上がります。そして、開花日の夕方には次第に大きく膨らみ、暗くなってから直径20~25㎝もある白い、美しい花を一度だけ咲かせます。見頃は午後10時頃からわずか2、3時間。夜明けを待たずに萎んでしまいます。「美人薄明」の語源になったと言われているのも頷けます。 花言葉は、美しい花姿から「あでやかな美人」。花が短時間しか咲かないことから「はかない美」「はかない恋」。花がめったにしか咲かないことから「秘めた情熱」。さらには、過酷なジャングルや日照りが強い所などでも生き延びることから「強い意志」。儚い花が強い意志を持っているというのも意外です。 時折り、月下美人の開花がテレビや新聞のニュースになります。ガーデニングの流行で月下美人の人気が高まり、栽培する人が増えたとはいえ、開花はまだまだ珍しいということなのでしょう。どの記事も花の発する強い香りについて書いています。 それにしても、どうして月下美人は夜に咲くのでしょうか? 送紛(植物の花粉を運んで受粉させること)に詳しい生物学者の井上健・元信州大学教授は著書の中で、月下美人は夜行性のコウモリに花粉を媒介してもらっているからではないかと指摘しています。 暗闇で目につく白い色、強い匂いは、コウモリに気付いてもらうためのもの。月下美人が、清楚なイメージとは程遠いコウモリに依存していたというのも意外でした。 ※参考図書プレミアムフラワーの花コラム
川端康成は『掌(たなごころ)の小説』の中で、月下美人(げっかびじん)をこのように表現しています。一夜限りの花を咲かせる月下美人は、まさに夢か幻のように儚(はかな)い花です。サボテンの仲間だった
美人薄明の語源に
儚くても強い意志を持つ
甘い香りが漂う
「甘い香りにうっとり」「濃厚な香りが漂った」「家の中が芳ばしい香りで充満した」「お香のような上品な香りを漂わせた」……。物の本によると、砂漠で咲いた場合は4キロ四方に香りが漂うそうです。私は開花を見たことがありませんが、是非とも視覚と嗅覚で確かめてみたいものです。
夜に咲く訳は
コウモリによって花粉媒介される花の特徴として①白やくすんだ色の花が多い②夜に開花する③夜間に強い匂いを放つーなどがあげられます。月下美人は、こうした全ての特徴を持ち合わせています。井上・元教授は「本来育った環境での習性を、今日にいたるまで残している」と記しています。意外なことだらけ
意外なことの多い月下美人。川端康成は、この花を「夢幻に浮かぶ花」「不思議な花」と形容しました。小説を読んだ直後は「夢幻」という言葉がぴったりだと思いましたが、花の生態を知るにつれて「不思議」という印象が強くなってきました。◇
「川端康成全集第一巻 掌の小説」(著者:川端康成、発行所:新潮社)
「月下美人はなぜ夜咲くのか」(著者:井上健、発行所:岩波書店)
「NHKテキスト 趣味の園芸」2021年6月号(編集:NHK・NHK出版、発行:NHK)
「日本の名随筆72 楠本健吉 月下美人/夜長」(編者:黒岩重吾、発行所:作品社)
※参考サイト
「月下美人の育て方」
「実用日本語表現辞典」
「マイナビ子育て 月下美人の花言葉」
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