花コラム
花コラム 第76回:わたしたちが正しい場所に花は咲かない
第76回:わたしたちが正しい場所に花は咲かない 2023.12.1 多くの国には、国民に愛されている代表的な花・国花があります。日本ではサクラとキク、韓国ではムクゲ、オランダではチューリップ‥‥。花は国だけでなく、平和をも象徴しています。 この紛争の地にも花は咲きます。イスラエル自然保護協会は2013年にアネモネ=写真=を国花に指定しました。アネモネはキンポウゲ科イチリンソウ属の多年草で、白、赤、ピンク、紫など色とりどりの花をつけます。ギリシャ神話では美少年アドニスが流した血からアネモネが生まれたとされています。日々のニュースに接していると、赤いアネモネは戦いで流れる血を連想してしまいます。 典型的な地中海性気候のイスラエルには、夏の乾季と冬の雨期しかありません。植物は乾季には、それまでに蓄えた水分と栄養分で耐えしのぎ、10月に雨期を迎えると一斉に芽を吹きだします。ヘブライ大学で日本語を教えていた辻田真理子さんはブログで「黄色かった大地が日に日に緑に変わっていく」と記しています。 一方、パレスチナの国花はギルボア・アイリス=写真=です。アヤメ科アヤメ亜属の多年草で、春先に紫色の香りの良い花をつけます。茎の上部に一輪だけ咲かせ、真直ぐに立ったまま枯れる姿から気高さを連想したのか、ロイヤルアイリスとも呼ばれます。 パレスチナの中でもガザ地区は土地が肥沃で、かつては世界有数の花やイチゴの産地でした。しかし、イスラエルに対する抵抗組織「ハマス」が2007年に実効支配してから、イスラエルはガザ地区を壁やフェンスで取り囲み、地区が面する地中海を海上封鎖。欧州向けの輸出はほぼ出来なくなり、行き場のなくなったカーネーションは家畜の餌にされているというニュースが流れたことがあります。 紛争地では花は咲いても、そこで暮らす人々には花を愛でて和むという心の余裕はないでしょう。 2000年前にローマ帝国によってパレスチナ(現・イスラエルとパレスチナ自治区)から追い出され、第二次世界大戦後に再びパレスチナに悲願の国家を建設したイスラエル人。そのパレスチナの地に根を下ろしていたのに、イスラエルに追い出されたパレスチナ人。どちらも正義は絶対的に自分の方にだけあると思い込み、話し合いの糸口さえ見えません。イスラエル・パレスチナ問題が世界で最も解決が難しい紛争と言われる所以です。 ※参考図書プレミアムフラワーの花コラム
ところが今、花とはおよそ無縁のように思える国と地域があります。戦火を交えているイスラエルとパレスチナ自治区ガザです。連日のように砲撃で破壊された街並みや泣き叫ぶ人々の写真、映像が報じられていますが、そこに花が映ることはありません。紛争の地にも花は咲く
※冒頭の写真はイスラエル大使館のfacebook掲載の「アネモネの真っ赤な絨毯」イスラエルは花の季節に
パレスチナでは香りの良い花
※写真は駐日パレスチナ常駐総代表部のホームページから転載ガザ地区の花は家畜の餌に
※地図はマップラボより転載花はぜったいに咲かない
《わたしたちが正しい場所に花はぜったい咲かない。春になっても…》(村田靖子訳)。イスラエルの国民的詩人イェフダ・アミハイ(1924~2000)が20年以上前に書いた詩「わたしたちが正しい場所」の一節です。一読しただけでは意味のとりにくい文章ですが、よく読むとイスラエルとガザ地区の現状を言い当てています。
自分たちの考え、主張だけが絶対に正しいという思い込みは、独善的な行動になって表れ、民族や国同士の争いにつながる。相手のことを考える想像力を働かせ、互いに存在、考え、主張を認め合うところに、初めて花は咲く…。紛争地の人々の心に咲く“花”は…
いつになったら、この紛争地の人々の心に“花”は咲くのでしょうか?◇
「エルサレムの詩 イェフダ・アミハイ詩集」(編訳:村田靖子、発行所:思潮社)
「わたしたちが正しい場所に花は咲かない アモス・オズ」(訳者:村田靖子、発行所:大月書店)
※参考サイト
「イスラエルの花々」
「EXPAT 海外で暮らしてみたら イスラエル・パレスチナのベストシーズン 春がやってきた!」
「Doki-Doki Holyland Map」
「聖地イスラエルの花」
「日本イスラエル親善協会Blog No.2~雨期と乾季~」
「facebookイスラエル大使館」
「パレスチナ—花とイチゴとミサイルと」
「パレスチナの国花について 駐日パレスチナ常駐総代表部」
「パレスチナの花」