花コラム
花コラム 第62回:秋明菊~美しい花は美しい名を持つ
2022.10.1 第62回:秋明菊~美しい花は美しい名を持つ 名は体を表す。名前はありのままの姿を表すものですが、美しい花の多くにも美しい名前が付けられています。胡蝶蘭(コチョウラン)、勿忘草(ワスレナグサ)、君影草(キミカゲソウ=スズラン)、杜若(カキツバタ)、紫陽花(アジサイ)、篝火草(カガリビソウ=シクラメン)、一人静(ヒトリシズカ)…。 秋明菊は草丈は70㎝ほどで、一重咲きと八重咲があります。まず先端に一輪咲き、続いてその脇に一輪ずつ順番に咲いていきます。一重咲きは白やピンクの5枚の花弁があるように見えますが、これは花弁ではなく萼(がく)が変化したものです。 秋明菊は中国から渡来しました。江戸幕府の五代将軍・徳川綱吉が「生類憐みの令」を制定する4年前の1681年に刊行された日本最古のガーデニング書「花壇綱目(かだんこうもく)」=写真=には、すでに秋明菊の名が記載されています。 花には学名の他に姿かたち、自生地、来歴などから様々な通称が付けられます。秋明菊は渡来後、京都・貴船一帯で自生したことから「貴船菊」の別名があります。さらには「秋牡丹」「しめ菊」「加賀菊」「越前菊」「唐(から)菊」「高麗菊」「秋芍薬(しゃくやく)」「紫衣(しえ)菊」…。数多くの通称を持つ花ですが、優雅さということでは秋明菊の右に出る名前はありません。秋明菊は秀逸の名前です。 数ある菊の中でも秋明菊は際立って優雅な花というイメージがありますが、実は秋明菊は菊の仲間ではありません。キンポウゲ科イチリンソウ(アネモネ)属の多年草です。ちなみに英語名は「Japanese anemone(アネモネ)」で、「chrysanthemum(菊)」の単語は使われていません。 そのキンポウゲにも別名があります。「ウマノアシガタ(馬の足形)」です。江戸時代は馬は蹄鉄でなく草鞋(わらじ)(※1)を履いていました。この草鞋がキンポウゲの葉の形に似ていることが、別名の由来と言われています。 (※1) 歌川広重の「浮世絵動物園 名所江戸百景」(太田記念美術館のホームページから転載)プレミアムフラワーの花コラム
これからの季節に咲く美しい名の花と言えば、秋明菊(シュウメイギク)=写真=が思い浮かびます。しみじみ眺めていたい花
作家の宇江佐真理氏は著書の中で「派手さはないが、しみじみ眺めていたくなる」花だと評しています。『秋冥菊』から『秋明菊』へ
中国では、この世のものとは思えないほど美しい「秋に咲く黄泉の国の菊」という意味で『秋冥菊』と書かれていました。『冥』には「黄泉の国・冥土」の他に「光がない・暗い」という意味があります。日本では反対の意味の漢字『明』に置き換えて『秋明菊』と書き換えられました。秋に咲く明るい菊。縁起をかついだのでしょう。これで印象はころっと変わりました。数多くの通称の中でも秀逸
菊ではなく金鳳花の仲間
秋明菊の科名のキンポウゲ=写真=は黄金色の綺麗な花で、漢字では「金鳳花」と書きます。花を鳳凰(ほうおう)に見立てて、この名が付けられました。やはり美しい花は美しい名を持っているものです。物事には例外が付き物
それにしても、お世辞にも綺麗な名前とは言えません。コラムの冒頭で「美しい花には美しい名前が付けられる」と書きましたが、補足します。物事には例外が付き物です。◇
※参考図書
「糸車」(著者:宇江佐真理、発行所:集英社)
※参考サイト
「みんなの趣味の園芸」(NHK出版)
「ガーデニングの図鑑」
「GARDEN STORY 秋の風情を感じる優雅さ 秋明菊の特徴、花言葉、育て方」
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