花コラム
花コラム 第50回:嬉しいことのある人はシオンを、憂いのある人はカンゾウを植えよう
2021.10.1 第50回:嬉しいことのある人はシオンを、憂いのある人はカンゾウを植えよう 悲しいことや嫌なことは忘れたい。嬉しいことや大切なことは、いつまでも覚えていたい。こんな、誰もが抱く願いを叶えてくれる花があると言います。シオン(紫苑)とカンゾウ(萱草)が、その夢のような花です。 「今は昔」の書き出しで始まる、平安時代に作られた日本最大の説話集『今昔物語』=写真は国宝・今昔物語(鈴鹿本)=に、不思議な力を持つシオンとカンゾウの話が載っています。 シオンはキク科イオン属の多年草です。別名は説話にちなんで「オモイグサ(思い草)」と「オニノシコグサ(鬼の醜草)」。醜草は醜(みにく)い草という意味ですが、花は決して醜くはありません。8月から10月にかけて中央に黄色い筒状の花、その周りを薄紫色の舌状花が一重に取り巻く直径3、4cmの花を咲かせます。今では野生で咲いていることはほとんどなく、環境庁から絶滅の危惧が増大している種に指定されています。 カンゾウはユリ科ヘメロカリス属の多年草で、別名「ワスレグサ(忘れ草)」。「私を忘れないで」という願いが込められたワスレナグサ(忘れな草)とは、真逆の思いが込められています。 日本各地の野山に広く分布しており、6~9月に直径8㎝ほどの大きなユリの形に似た、明るい黄色がかった橙色の花をつけます。日本の伝統色名では萱草色(かんぞういろ)=写真は色彩図鑑から転載=と名付けられ、別れの悲しみを忘れさせる「喪の色」とされました。 花言葉はシオンは「君を忘れない」「遠くの人を思う」。カンゾウは「悲しみを、憂いを忘れる」「愛の忘却」。近代に西洋から伝来した花言葉は、ギリシャ神話や西洋の言い伝えに由来するものが多いのですが、この二つの花は日本の言い伝えがそのまま花言葉になりました。 先の今昔物語の説話は、次のように締めくくられています。 新型コロナウィルスの出現で、私たちの生活は一変しました。家族や友達と好きな所へ出かけ、遊んだり笑い合ったりと、これまでは普通にしていたことが今では出来にくくなりました。これからもコロナウィルスはゼロになることはなく、ウィルスと共存する“ウィズコロナ”の時代が続くでしょう。 以前の暮らしや価値観はいったん忘れて、新しい生活様式を築いていくことになりますが、こんな時だからこそ人と人との繋がりをより大切にすることは忘れたくありません。シオンとカンゾウにちなんで、忘却と記憶を使い分けようと心に決めています。 ※参考図書プレミアムフラワーの花コラム
父親を亡くした兄弟の物語
《父親を亡くした兄弟は、よく連れ添って墓参りをしていました。やがて兄弟は朝廷に仕え、忙しくなった兄はカンゾウをお墓に植えて、次第に墓参りをしなくなりました。カンゾウは見る人の思いを忘れさせてしまうと言います。
一方、弟は「父を恋しく思う心を失わないようにしよう」と考え、シオンをお墓に植えて、墓参りを続けました。シオンは見る人の思いを忘れさせないと言います。
父親の屍を守っている鬼が弟の志に感心し、その日のうちに起こることを夢で予知出来る能力を弟に与えました。親を慕う心が深かったから、起こったことです。》鬼の醜い草?
忘れな草とは真逆の花
日本の言い伝えが花言葉に
シオンとカンゾウをいつも見れば…
《喜(うれし)キ事有ラム人ハ紫苑ヲ殖(うゑ)テ常ニ可見(みるべ)シ、憂(うれ)ヘ有ラム人ハ萱草(くわんざう)ヲ殖(うゑ)テ常ニ可見(みるべ)シ》
(嬉しいことのある人はシオンを植えて、憂いのある人はカンゾウ=写真=を植えて、いつも見るべきだ)ウィズコロナの時代へ
忘却と記憶の使い分けを
◇
「今昔物語集④」巻第31の第27(校注・訳者:馬淵和夫、国東文麿、稲垣泰一、発行所:小学館)
※参考サイト
「京都大学貴重資料デジタルアーカイブ」
「うたことば歳時記」
「花と緑の図鑑」
「伝統色のいろは」
「色彩図鑑」
コメント

コメントはまだありません。