花コラム
花コラム 第48回:ムクゲに込められた思い
2021.8.1 第48回:ムクゲに込められた思い うだるような暑さが続きます。この時期に咲く花が少ないこともあってか、外出するとムクゲ(木槿)の街路樹や庭木に目が行くようになりました。薄紫、ピンク、白など多彩な色の、涼やかなムクゲに出会うと、ひと息入れたような気分になります。 ムクゲはアオイ科フヨウ属の落葉樹。3~4mの高さになり、7月から9月にかけてフヨウ(芙蓉)に似た、直径5~10cmの五弁の花をつけます。フヨウの葉は大きく、ツタのような形をしており、ムクゲの葉はやや細長く、周囲がキザキザしているのが特徴です。 中国原産の木槿(ピンイン)は、平安時代に日本に渡来した代表的な夏の茶花です。日本人にとって馴染みのある花ですが、韓国の人々にとっては思い入れがある特別な花で、国花にもなっています。 以前に韓国に旅行した際、ホテルの正面玄関に花のマークが表示してあり、「何だろう」と思ったことがあります。コンシェルジュに聞くと、韓国ではホテルの等級は星ではなく、ムクゲをデザイン化したマークの数で表すということでした。「五つ星」ならぬ「五つムクゲ」という訳です。 駐日韓国文化院の「韓国基本情報」によりますと、紀元前の古代朝鮮の頃からムクゲは“天の花”とされ、9世紀に新羅は自らを『グンファヒャン(槿花郷=ムクゲの国)』と呼んでいました。 韓国にとっての“民族の花”ムクゲは、サクラに取って代わられようとしたことがありました。 1945年8月15日は日本にとっては終戦記念日ですが、韓国にとっては植民地から解放された独立記念日になります。独立後、韓国の教科書にはさっそく「無窮花」が復活し、次のような詩が国語の教科書に載りました。 不幸な歴史問題は戦後76年を経た今もなお尾を引き、日韓関係は過去最悪とさえ言われています。政治、経済的なやり取りだけでなく、自然、文化にまで関わるだけに、修復は困難を極めています。日韓両国の人々がムクゲを、サクラを純粋に美しいとだけ思える日が来ればいいのですが……。 ※参考図書プレミアムフラワーの花コラム
次から次へと咲く花
一つの花は朝に咲いて夕方にしぼむ一日花ですが、新しい花が次から次へと咲いていきます。一つの木に、開花した花と前日までに咲いて萎んだ花の名残が同居しているのもムクゲの特徴です。
こうしたことから「新しい美」「繊細な美」、さらには母親を連想させるとして「慈しみ」の花言葉が生まれました。韓国のホテルの等級はムクゲの数で
祖国独立の思いを花に託す
韓国でもムクゲは「木槿」と書きますが、外国勢力が押し寄せ、国の独立が危うくなった19世紀末に『無窮花(ムグンファ)』という漢字が充てられるようになりました。“窮(きわ)まることのない花”、散っても散っても新しい花が咲くムクゲに永遠の力を感じ、祖国の独立の思いを託したのです。
(※韓国では1970年に漢字廃止宣言が行われ、通常はハングルで表記されるようになりました。)ムクゲがサクラに取って代わられる
岩手大学の研究紀要に掲載された論文「日本人にとってのサクラ教材と韓国のムクゲ教材 井上雅夫」によると、日本が韓国を併合(1920年)した後、朝鮮を統治する朝鮮総督府が編纂した教科書(普通学校国語教本)からムクゲが姿を消しました。そして、代わりにサクラが登場し、〈ワガ 日本ノ サクラ ホド キレイナ ノ ハ、ホカ ノ クニ ニハ アリマセン〉と記されました。朝鮮の人々が心の拠り所にしていたムクゲは、統治する側にとってはやっかいな花だったのです。独立後にムクゲが復活
『津々浦々おりおりの花は咲けども われわれはどの花よりも 無窮花を愛す わが民族の花 無窮花よ』純粋に美しいと思える日を
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「実とタネ キャラクター図鑑」(著者:戸田多恵子、発行所:誠文堂新光社)
「五感で調べる木の葉っぱずかん」(著者:林将之、発行所:ほるぷ出版)
※参考サイト
「日本人にとってのサクラ教材と韓国のムクゲ教材 井上雅夫 岩手大学教育学部付属教育実践研究指導センター研究紀要第8号 pp.17―29」
「韓国の基本情報 駐日韓国文化院」
「韓国の国花ムクゲ 翻訳会社アークコミュニケーションズ」
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