花コラム
花コラム 第36回:「菫」は愛らしい花?それとも恐ろしい花?
2020.8.1 第36回:「菫」は愛らしい花?それとも恐ろしい花? スミレは誰からも愛される花の一つです。片仮名や平仮名で書かれることが多いようですが、漢字では「菫」と書きます。常用漢字ではありませんが、名前に使える人名用漢字には入っています。 スミレはスミレ属スミレ科の総称で、パンジーやビオラなども含まれますが、私たちが一般的に思い浮かべるスミレは日本に自生するViola
mandshuricaという種です。春から初夏にかけて、直径2cmほどの深い紫色の花を咲かせます。 『菫』の音読みは「きん」、訓読みは「すみれ」ですが、実はもう一つ訓読みがあります。“植物界最強の毒花”と言われる「とりかぶと」=写真=です。スミレとトリカブト。意外なことに、イメージの全く違う植物が同じ漢字だったのです。 トリカブトはキンポウゲ科トリカブト属の総称です。日本では約30種が自生し、8月から9月にかけて2、3cmの紫、白、黄色などの花=写真左側=を咲かせます。花の形が舞楽の常装束に用いられる冠の装飾品・鳥兜=写真右側(広辞苑無料検索から抜粋)=に似ていることから、「菫」の他に「鳥兜」とも書かれます。 トリカブトに含まれる毒成分・アコニチン系アルカロイドは細胞活動を停止させる作用があり、心臓麻痺などを引き起こします。30数年前には、トリカブトを使った保険金殺人事件も発生しました。 それにしても、どうして「菫」は似ても似つかないスミレとトリカブトの二通りの読み方をされるようになったのでしょうか? 図書館で漢字の語源に関する本を片っ端から読んでみました。疑問は解消しませんでしたが、漢字源などには「菫」について次のような意味のことが書いてありました=写真は漢字源=。 漢字は10万字以上もある、世界で最も文字数の多い文字体系です。そんなに多くあるのなら、一つの漢字にわざわざ二つの花を当てはめることはなかったのに……。そう思って花の数を調べてみると、世界中で花は漢字の倍の約20万種もありました。それなら、一つの漢字で複数の花の名前を表現しなければ間に合わないな、と合点がいきました。 ※参考図書プレミアムフラワーの花コラム
スミレは見慣れた、愛らしい花
花言葉は道端でひっそりと咲く姿にちなんで「謙虚」「誠実」「小さな幸せ」「愛」。『すみれの花咲く頃』や『四季の歌』『春の小川』などの歌詞に出てくるスミレは、いずれも見慣れた、あの愛らしい花の姿と花言葉を連想させます。植物界最強の毒花も同じ漢字だった
盛夏に咲く、冠のような花
ブスの語源はトリカブト?
太い根から派生する細い根(子根)を乾燥させたものは、強心作用などのある漢方薬として用いられます。「ブシ(附子)」と呼ばれますが、これが不美人を意味する「ブス」の語源になったとも言われています。トリカブトの中毒になると神経がマヒし、表情が変わるという訳です。スミレとトリカブトが同じ漢字になった訳は?
《草冠(くさかんむり)は草本植物の総称。その下は「わずか」「少し」などを意味する漢字。併せて「小さな野菜」を意味するようになった。》
スミレとトリカブトは、花の形や花期は違います。あえて共通点を探すと、色と大きさが似ているというぐらいです。「小さな野菜」というキーワードから、ある人はスミレを、別の人はトリカブトを思い浮かべたということでしょうか。花の数は漢字の倍もある
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「漢字源」(編者:藤堂明保、松本昭、竹田晃、加納喜光、発行所:学研教育出版)、「人名の漢字源辞典」(著者:加納喜光、発行所:東京堂出版)、「漢字語源辞典」(著者:藤堂明保、発行所:学燈社)
「身近にあふれる『危険な生物』が3時間でわかる本」(著者:西海太介、発行:明日香出版社)
「人間の役に立っている ありがたい生き物たち」(監修:石田秀輝、発行所:リベラル社)
「こわくない有機化合物超入門」(著者:船山信次、発行所:技術評論社)
※参考サイト
「植物界最強の毒花・トリカブト サイエンス 2016年10月12日」
「キッズネット」
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