花コラム
花コラム 第19回:忘れな草は幸せを祈る花
2019.3.1 第19回:忘れな草は幸せを祈る花
3月は卒業・別れの季節。『私を忘れないで』。花の名前がそのまま花言葉になった「忘れな草」に、思いを託した方もいらっしゃるでしょう。
花の名前のインパクトが強いので、「名前は知っているが、どんな花かは知らない」という人も珍しくありません。かく言う私も、抒情歌「忘れな草をあなたに」(作詞:木下龍太郎、作曲:江口浩司)を聴いて花の名前を初めて知ってから久しく、忘れな草を実際に見たことはありませんでした。
1971年に女性コーラスグループのヴォーチェ・アンジェリカが最初に歌い、その後、倍賞千恵子、菅原洋一、芹洋子ら数多くの歌手が歌っています。ユーチューブで検索すると、北朝鮮の女性歌手が1、3番を日本語で、2番を韓国語でドラマチックに歌い上げる歌唱も流れてきます。国交のない北朝鮮では日本の歌は禁じられているはずですが、それでもなお国民の間で歌われているのは、名曲の証しとも言えます。
この他、忘れな草がタイトルや歌詞に出てくる歌は「忘れな草をもう一度」(中島みゆき)、「Forget-me-not」(さだまさし)、「Forget-me-not」(尾崎豊)、「儚い指先」(KAT-TUN)など数多くあります。カンツォ―ネ「Non Ti Scordar Di Me(忘れな草)」は1935年のイタリア映画「忘れな草」の主題歌になって以来、世界的にヒットした余りにも有名な歌です。忘れな草ほど、歌や文芸作品のテーマに取り上げられた花はないかもしれません。
えっ、こんなに小さな、綺麗な花だったの? 知人宅のベランダのプランターの中で咲いている忘れな草を初めて見た時、その可憐さに驚いた記憶があります。ムラサキ科ワスレナグサ属。直径1cm弱の青紫、薄青色の5弁の花びらの中心部には、黄色と白色の小さな斑点がアクセントを付けています。花期は3~5月ですから、これから楽しめる花です。
名前のいわれは、中世ドイツにさかのぼります。青年が恋する乙女とドナウ川の河畔を散策中、流れの中の小島に生えている美しい花を見つけ、乙女に捧げようと川に飛び込みました。花を摘み、岸の近くに戻ってきたとき、こむら返りに襲われました。滝がすぐ近くに迫っています。青年は最後の力を振り絞って、花を乙女の足元に投げ、「Vergiss-mein-nicht!(私を忘れないで)」と言って川にのみ込まれました。
乙女は生涯、この花を身につけ、青年を思い続けました。そして、この花は「忘れな草」と呼ばれるようになりました。英名「Forget-me-not」は、そのまま直訳したものです。
命を賭して愛する人に花を捧げた青年。その青年を死ぬまで愛し続けた乙女。2人の愛の姿から、花言葉は『私を忘れないで』のほかに『真実の愛』も生まれました。ヨーロッパでは、恋を成就させる魔法の花と信じられてきたそうです。
今年も3月には様々な別れが繰り広げられ、『私を忘れないで』という思いが交錯することでしょう。そして、もうひと月過ぎれば旅立ちと出会いの4月。新たな『真実の愛』が芽生えるときかもしれません。
※参考文献 「花の神話と伝説」(C.M.スキナー著、垂水雄二、福屋正修訳、八坂書房刊)、「空のほほえみ」(高橋健司著、新人物往来社刊)プレミアムフラワーの花コラム
名前は知っているが、どんな花かは知らない
♪別れても 別れても 心の奥に
いつまでも いつまでも
おぼえておいて ほしいから
しあわせ祈る ことばにかえて
忘れな草を あなたに あなたに♪
北朝鮮でも歌われる名曲
数多くの歌のテーマになった花
小さな可憐な花
悲しい名前のいわれ
恋を成就させる魔法の花
幸せを祈り合う別れ
◇
※参考サイト 「ワスレナグサ=勿忘草」、「歌詞‐歌ネット」、「国立台湾博物館」
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