花コラム
花コラム第105回:ヤマボウシ~名前で損をしている花
第105回:ヤマボウシ~名前で損をしている花 2026.6.1 公園や街路を白や紅色で彩ったハナミズキが姿を消すと、入れ替わるように同じミズキ科ミズキ属のヤマボウシ(山法師)が目につくようになりました。花の白と葉の緑のコントラストが際立って見えます。葉が出る前に花をつけるハナミズキは華やかな感じがしますが、葉ができた後に花を咲かせるヤマボウシは落ち着いた雰囲気で街に潤いをもたらします。 ヤマボウシとハナミズキの花はよく似ています。どちらも本来の花ではなく、総苞片(そうほうへん)と呼ばれる花の付け根にある葉っぱです。本当の花の部分は中央に集まっている小さな粒状の固まりです。 花に季節の移ろいや愛、友情、惜別など様々な思いを託して、数多くの歌や文芸作品が生まれました。バラは『ばら色の人生(ラ・ヴィ・アン・ローズ)』『百万本のバラ』など、サクラは『さくら』『桜坂』など数え上げればきりがありません。ハナミズキも花の名前をそのまま曲名にした一青窈の歌が大ヒットしました。「♪君と好きな人が 百年続きますように♪」のフレーズを口ずさんだ方は多いことでしょう。 ところがヤマボウシをテーマにした歌は、すぐに思いつきません。ヤマボウシがタイトルになった文芸作品を探してみましたが、『ヤマボウシの下で』という本が1冊見つかっただけでした。ヤマボウシは初夏を代表する花なのに、どうしてテーマになりにくいのか? 私見ですが、ヤマボウシという名前が影響しているのではないでしょうか。 本来の花である中央の粒状の部分を法師(僧侶)の頭に、その周りにある花のように見える白い部分を頭巾に見立てて、ヤマボウシと名付けられました。では、どうして「法師」に「山」が付いたのか? これには二つの言い伝えがあります。 弓矢や長刀などで武装した山法師が洛中に強訴する様子を描いた『山法師強訴図』の屏風=写真左側=が琵琶湖文化館に保存されています。写真右側は頭巾を被った山法師(白色で囲んだところ)を拡大したものです。 ヤマボウシが違う名前だったら、もっと多くの歌や小説のテーマになったかもしれません。ヤマボウシは名前で損をしています。しかし、その損を取り戻す話もあります。
※参考図書プレミアムフラワーの花コラム

ハナミズキにそっくり

見分け方は総苞片の先端に窪みがあるのがハナミズキ=写真左側=で、先端がとがっているのがヤマボウシ=同右側=。花の時期はハナミズキが4~5月、ヤマボウシは少し遅れて5~6月です。花は数多くの歌や文芸作品に
ヤマボウシの歌は?

ヤマボウシの名前の由来

一つはヤマボウシは山に生えているから、法師に山を付けた。もう一つは、山法師は比叡山延暦寺の武装した僧侶を指すというものです。延暦寺の山法師は11世紀に神輿(みこし)を担いで平安京へ押しかけて強訴するなどし、白河法皇は『賀茂河の水、双六の賽(さい)、山法師。是(これ)ぞわが心にかなはぬもの』(賀茂川の水、双六の賽、山法師は自分の思うようにはならない)と嘆いたと、平家物語に記されています。似ても似つかない

どう見ても、この山法師とヤマボウシの花は似ても似つかないたとえです。いかつい表情で刀を振りかざす山法師と爽やかに咲くヤマボウシとでは、イメージが違い過ぎます。
※写真は滋賀県文化財保護協会HPから転載
名前で損をした分を甘い果実がカバー

秋に実るハナミズキの果実には毒があります。一方、ヤマボウシの果実=写真=は甘くて生食でき、果実酒やジュース、ジャムにもなります。実食した人は「イチジクや干し柿のようで、甘みが強く、濃厚な味だった」とSNSで書いています。最近では公園などに植えられているハナミズキをヤマボウシに植え替える自治体も出始めました。名前で損をした分を甘い果実がカバーしているというところでしょうか。◇
「平家物語 巻第一~巻第六」(校注・訳者:市古貞次、発行所:小学館)
「ヤマボウシの下で」(著者:脇坂由樹子、出版社:吉備人出版)
※参考サイト
「滋賀県文化財保護協会」
「琵琶湖文化館」
「【日々是読書】僧侶上田 隆弘の仏教ブログ」
「みんなの趣味の園芸」
「別荘の解剖図鑑~東大院生の蓼科山荘滞在記~」














