花コラム
花コラム第97回:イヌサフラン~可愛い犬が悪者にされた
第97回:イヌサフラン~可愛い犬が悪者にされた 2025.10.1 10月に入ると、ようやく秋の気配が漂い、道端や花壇を彩る花は鮮烈な色から落ち着いた色へと変わりつつあります。そんな秋の花の中で、少し変わった花姿をしているのがイヌサフランです。 花姿だけでなく、「私の最良の日々は過ぎ去った」という花言葉も変わっています。この由来については、コラムの第37回で書きましたが、この花には変わっていることがもう一つあります。イヌサフランという名前です。 イヌサフラン科多年草のイヌサフラン=写真左側=はサフランの名前が付いていますが、アヤメ科のサフラン=写真右側=とは全く別の植物です。花の形はサフランに似ていますが、サフランのように香辛料にはなりません。ならないどころか、球根にはコルヒチンという猛毒物質が含まれています。コルヒチンは痛風の薬にもなりますが、誤食すると下痢や呼吸困難を発症します。先月には、岡山県でイヌサフランの球根をタマネギと間違えて食べた男性がなくなっています。 イヌサフランはサフランと区別するために、頭に「イヌ」が付けられました。イヌダテ、イヌマキ、イヌザンショウなどのように、「イヌ」が植物の名前の接頭語になると、元の品種より形や材質が劣り、役に立たないという意味になります。 太宰治の小説『畜犬談』に次のような記述があります。《ただひたすらに飼主の顔色をうかがい、阿諛追従(あゆついしょう)てんとしてはじず、ぶたれても、きゃんといい尻尾まいて閉口して見せて、家人を笑わせ、その精神の卑劣、醜怪、犬畜生とはよくもいった。(中略)思えば、思うほど、犬は不潔だ。犬はいやだ。》 犬は何千年もの昔から、狩猟の手伝いをしたり番犬になったりして人間と共生してきました。そして今は空前のペットブーム。外を歩けば、必ずと言っていいほど犬連れの人とすれ違います。私も犬は大好きで、可愛い愛犬にどれだけ慰められているか分かりません。 太宰が『畜犬談』を著したのは1939年。当時は野良犬に噛まれて、狂犬病でなくなる人は数多くいました。狂犬病の予防注射などを義務付けた狂犬病予防法が公布されたのは1950年。この頃になっても、室内で犬を飼う人は少なく、野良犬は街中を徘徊していました。保健所が野良犬の保護に乗り出し、野良犬がほぼいなくなったのは、この20数年のことです。 イヌサフランはヨーロッパから北アフリカが原産で、日本へは明治時代の初期に渡来しました。この頃は犬のイメージは余り良くなかったことから、「イヌ」が悪い意味で付けられたと思われます。同じ花がヨーロッパで “裸の貴婦人”と呼ばれているのとは大違いです。プレミアムフラワーの花コラム

春につけた葉が夏に枯れ落ちた後、秋になって地表から突き出た花径に紫やピンク、白色の可愛い花を咲かせます。まるで花径を地面に突き立てたようです。変わっている花姿、花言葉、名前

犬が悪いもののたとえになった
「イヌ」が悪い意味で使われるのは植物に限りません。「犬死(いぬじに)」は役に立たない死に方、「犬畜生」は不道徳な人を罵る言葉、「負け犬」は競争に敗れた意気地のない人、「犬侍」は武士道をわきまえない侍……。犬はどうして、こんなに悪いたとえにされるのでしょうか?「犬は不潔だ。犬は嫌だ」

※阿諛追従=こびへつらうこと
※写真は青空文庫のホームページから転載犬は人間の良きパートナー

ですから、犬を激しく罵倒する太宰の気持ちは分かりません。「イヌ」が悪い意味の接頭語になることも解せません。時の流れとともに、人間と犬との関係が大きく変わってきたということなのでしょう。20余年前までは野良犬が徘徊
鑑賞用の花の名前には出来ない

イヌサフランは正式な和名ですが、園芸用としては学名「Colchicum autumnale」をもとにした「コルチカム」の名前で流通しています。さすがに「イヌサフラン」を鑑賞用の花の名前にするのは憚られたのでしょう。◇
※参考図書
「畜犬談 伊馬鵜平君に与へる」(青空文庫)
「走れメロス」(著者:太宰治、発行所:ポプラ社)
「植物による食中毒と皮膚のかぶれ」(著者:指田豊と中山秀夫、発行所:少年写真新聞社)
※参考サイト
「BOTANICA」
「GARDEN STORY」
「読売新聞オンライン2025/9/12 イヌサフランを食べ男性死亡」
「農林水産省 狂犬病予防法」













