花コラム
花コラム 第69回:レンゲソウ~手に取るな やはり野に置け
第69回:レンゲソウ~手に取るな やはり野に置け 2023.5.1 「手に取るな やはり野に置け」の俳句に続く花の名前は? Yahoo!知恵袋に「やはり野に置け月見草って、どういう意味ですか?」「やはり野に置けスミレソウといいますが…」などという質問が載っていましたが、正しくはレンゲソウ(蓮華草)です。案外、間違って覚えている方がいるようです。 マメ科ゲンゲ属のレンゲソウは、10~20cmの茎の先に6~10個の小さな赤紫色の花が集まって咲きます。花姿が蓮に似ていることから、蓮華草と呼ばれるようになりました。標準和名はゲンゲ。レンゲ、ゲンゲソウ、ノエンドウなどとも言われます。 レンゲソウは根に空気中の窒素を取り込んでおり、天然の窒素肥料として栽培されてきました。秋に刈り入れの終わった田んぼにレンゲソウの種がまかれ、それが翌春に一斉に花開いてレンゲ畑になります。花が散った後、田んぼを掘り起こす際にレンゲソウも一緒にすき込まれ、緑肥になるという訳です。 この俳句は「蓮華草は野に咲いていてこそ美しいのだから、摘み取らないのがよい。草木も人も本来あるべき所でそのまま愛でるのがよい」(コトバンク)という意味です。江戸時代の俳人・滝野瓢水(ひょうすい)が、遊女を身請けしようとした知人をいさめて詠んだと言われています。 花は切り花にされると、ただでさえ短い花の命はさらに短くなります。摘み取らないで野に咲いている姿を愛でるのがよいのは、全ての野花に当てはまることです。 ところが、レンゲソウは化学肥料が普及するにつれて次第に姿を消していきました。しかも、田んぼそのものもパン食の普及や5年前まで行われた減反政策などで少なくなりました。今でも一部の有機栽培の水田ではレンゲソウが栽培されていますが、他は野生化したものがあぜ道や草地などで自生しているだけになりました。 ※参考図書プレミアムフラワーの花コラム
※質問の文章の下線は筆者が引きました。首飾りや冠を作る材料に
長い茎を束ねたり編んだりして首飾りや冠を作るのは、子供たちの定番の草花遊びでした。「春の小川はさらさらいくよ 岸のすみれや れんげの花に」と童謡にも歌われ、身近な草花として親しまれてきました。この季節はレンゲ畑があちこちに
この季節、以前は田畑にさえ行けば、レンゲ畑を見ることが出来ました。明治時代の詩人・北村透谷は「野面(のおも)を見渡すかぎり美しきむしろを布きつめたる花の心はさていかに。」と書いています。遊女の身請けをいさめた句
今なら「遊女のあるべき所って何だ」と炎上するところですが、この時代の人権感覚では問題にならなかったのでしょう。どうしてレンゲソウなの?
では、どうして瓢水は数ある野花の中からレンゲソウを選んで俳句に詠みこんだのでしょうか? 確かなことは分かりませんが、それだけレンゲソウが身近にあったということではないでしょうか。レンゲ畑は懐かしい景色に
このコラムに写真を載せようと思い、レンゲ畑の残っていそうな所を訪ね回りました。なかなか見つからず、ようやく5か所目に訪れた大阪府箕面市石丸地区で冒頭と左の写真が撮れました。久しぶりに見る景色に、懐かしさが込み上げてきました。
瓢水の句にピンと来ない人が増えたのは、レンゲソウが身近でなくなったことの裏返しかもしれません。◇
「明治文学全集29 北村透谷集の蓮華草の項」(著者:北村透谷、発行所:筑摩書房)
「野をいろどる植物」(著者:南光重毅、発行所:誠文堂新光社)
「たね図鑑②野草のたね」(著者:おくやまひさし、発行所:汐文社)
※参考サイト
「レファレンス協同データベース」
「みんなの花図鑑」
「Yahoo!知恵袋」
「にちにち 手に取るな やはり野に置け 蓮華草」
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