花コラム
花コラム 第54回:春を告げる儚い花~セツブンソウは人間嫌い
2022.02.1 第54回:春を告げる儚い花~セツブンソウは人間嫌い 早春に地中から姿を現して花をつけ、春が終わると地中へと姿を消す野の花を「スプリング・エフェメラル(Spring Ephemeral)」と言います。「春の短い命」と訳されていますが、「Ephemeral」には「つかの間の」「一時的な」などの他に「儚(はかな)い」という意味もあります。今回はスプリング・エフェメラルの一つ、セツブンソウ(節分草)の儚い話です。 セツブンソウはキンポウゲ科セツブンソウ属の多年草で、日本固有の種です。草丈は10cmほど。その名の通り節分の頃に直径2㎝ほどの小さな、白い可憐な花をつけ、「春を告げる花」「春のプリンセス」とも呼ばれています。ウメのような5枚の花びらは萼片(がくへん)が花弁状に変化したもので、本当の花弁ではありません。 ひっそりと、優しく咲く様子から「微笑み」、花の中央部の黄色い蜜槽が冠のように見えることから「光輝」の花言葉が生まれました。この他、どういう訳か「人間嫌い」という意外な花言葉もあります。 かつては春光が注ぎ始めると、関東から西の各地で霜を押し分けて顔を出し、大群落となって一帯を白く彩ったと言われています。しかし、最近は埼玉県小鹿野町や兵庫県丹波市青垣町、広島県庄原市総領町などの自生地以外では、余り見かけなくなりました。同じスプリング・エフェメラルのカタクリ、ニリンソウ、フクジュソウなどは知っていても、セツブンソウは見たことがないという方が多いのではないでしょうか。 セツブンソウは、環境省が定めた絶滅のおそれのある野生生物のリスト「レッドブック」で準絶滅危惧種(生息条件の変化によっては、より危険度の高い絶滅危惧種に移行する可能性のある種)に指定されています。さらに静岡県や愛知県などでは、絶滅の危惧がより強い絶滅危惧2類(VU)にも指定されています。 セツブンソウが少なくなった原因は開発による環境の変化、それに乱獲と言われています。綺麗な花を見つけると、ついつい持ち帰る人もいるのでしょう。一年の大半を地中で球根や地下茎の形で眠り、ようやく春先に顔を出して花を咲かせたと思ったら、切られてしまう。何とも、儚い花です。 やはり野に置け蓮華草。蓮華草もセツブンソウも、野で咲いてこそ美しいものです。「人間嫌い」の花言葉は、人間の仕打ちを悲しく思っているセツブンソウの気持ちを言い当てているのかもしれません。 ※参考図書プレミアムフラワーの花コラム
日本固有の“春を告げるプリンセス”
どういう訳か意外な花言葉も
かつては日本各地に群落
絶滅する恐れも
※写真は日本レッドデータのセツブンソウ分布図。紫、橙、黄色の順に絶滅の危惧が大きい。開発と乱獲のダブルパンチ
やはり野に置け
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「育ててみたい山野草 春 NHK趣味のガーデニング21」(編集人:硲美仁、発行所:日本放送協会)の「セツブンソウ」(著者:内藤登喜夫)
「二月の花」(監修:大岡信、田中澄江、塚谷裕一、発行所:作品社)の「季節を知る律義者のセツブンソウ」(著者:本田正次)
※参考サイト
「日本のレッドデータ検索システム」
「まごころの宝箱 丹波市観光協会」
「野川公園オフィシャルブログ」
「庄原観光ナビ」
「スプリング・エフェメラル~春のはかない植物たち‐札幌市」
「花言葉事典」
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