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花コラム

第24回:本当の月見草をご覧になりましたか?

プレミアムフラワーの花コラム

2019.8.1

第24回:本当の月見草をご覧になりましたか?

   「富士には、月見草がよく似合う」と太宰治が小説『富嶽八景』で80年前に書いてから、月見草(ツキミソウ)の名前は広く知られるようになったと言われています。しかし、月見草がどんな花かは意外と知られていないのではないでしょうか。私は〈夏の夜、月明かりの中でひっそりと咲く黄色い花〉というイメージを長く抱いていましたが、これは月見草ではなく、同じマツヨイグサ属の待宵草(マツヨイグサ)でした。

黄色いのは待宵草、月見草は白と淡いピンク色

 月見草=写真右=は江戸時代にメキシコから渡来しました。夏の夕方に光が透けるような薄い、白い花びらの4~5?の花を咲かせます。花は明け方に淡いピンク色に変わって、一夜限りの命を終えます。
 待宵草は月見草より少し遅れて南米から渡来しました。月見草とは花びらや花の形が似ており、宵になるのを待つようにして咲くのも同じですが、花の色は白やピンクではなく黄色です。

月見草はもう自生していない

 繁殖力が強い待宵草は国内各地で野生化して広まりましたが、月見草は繁殖力が弱いことから次第に姿を消してしまいました。日本月見草協会によると、〈日本の植物学の父〉と言われる牧野富太郎は著書『牧野富太郎植物記』(1973年刊)=写真=の中で「月見草は今日ではほとんど見られない」と書いています。月見草は半世紀前には、すでに自生しなくなっていた訳です。

ぶるぶると身を揺すって、10分間で咲く

 今では観賞出来るのは栽培されたものだけです。開花を見た人は「ぶるぶると身をゆすりながら咲いていく様は見ごたえがありました」とブログに書いています。咲き始めてから満開になるまでは、わずか10分間ほど。これは一見の価値がありそうです。

文豪も花の名前を間違えた

 『富嶽八景』で太宰は「黄金色の月見草」と書いています。ということは、太宰が見たのは正確には月見草ではなく待宵草=写真左=だったことになります。太宰だけではありません。文豪・川端康成は『月見草の咲く夕』の中で「月見草がほの暗い内に明瞭(はっき)りと黄色く揺らぎ…」と書いています。はっきりと「黄色」と書いているので、これも待宵草だったと思われます。

「王と長嶋はヒマワリ、私は月見草」

 それでは、野球解説者の野村克也が話した「王や長嶋はヒマワリ。それに比べれば、私なんかは日本海の海辺に咲く月見草だ」の月見草=写真=はどうでしょうか。1975年に通算600号のメモリアルアーチを放った後のインタビューで答えたものです。当時は野村が所属していたパリーグは人気がなく、何をしても王や長嶋がいるセリーグが脚光を浴びていました。そうした状況を表現したものでした。

京丹後に咲いていた花は?

 野村はただの月見草ではなく、「日本海の海辺に咲く」と場所を特定して表現しています。彼の故郷は京都府の日本海側にある京丹後市。この地に月見草が自生していたのかどうかは分かりませんが、牧野富太郎によると、野村がこの名言を口にした時は月見草はすでに「ほとんど見られない」状況でした。京丹後に咲いていたのが待宵草だとしたら、名言はどうなっていたでしょうか。
 
 彼にお会い出来る機会があれば、「故郷でご覧になった月見草は白色でしたか?それとも黄色でしたか?」と聞いてみたいものです。

※参考図書
「富嶽八景 走れメロス 他八篇」(太宰治作、岩波文庫発行)
「川端康成全集第24巻」(川端康成著、新潮社発行)
「野村メモ」(野村克也著、日本実業出版発行)

※参考サイト
「日本月見草協会」
「週刊野球太郎」2016年5月22日
「LOVEGREEN植物と暮らしを豊かに」
「本当の月見草(その他自然科学)-風にのって-Yahoo!ブログ」

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コラムライターのご紹介

福田徹(ふくだ とおる)

元読売新聞大阪本社編集委員。社会部記者、ドイツなどの海外特派員、読売テレビ「読売新聞ニュース」解説者、新聞を教育に活用するNIE(Newspaper in Education)学会理事などを歴任、武庫川女子大学広報室長、立命館大学講師などを勤めました。
花の紀行文を手掛けたのをきっかけに花への興味が沸き、花の名所を訪れたり、写真を撮ったりするのが趣味になりました。月ごとに旬の花を取り上げ、花にまつわる話、心安らぐ花の写真などをお届けします。

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