花コラム
花コラム 第78回:スノードロップ~「逆境の中の希望」と「慰め」
第78回:スノードロップ~「逆境の中の希望」と「慰め」 2024.2.1 2024年は能登半島地震、羽田空港の航空機事故と大惨事が相次ぎ、悲しい年明けになりました。亡くなった方々のご冥福をお祈りし、被災された方々にお見舞いを申し上げます。 スノードロップはヒガンバナ科ガランサス属の多年草。冬の終わりから春先にかけて、白い可憐な花を下向きに咲かせます。名前の由来は、中世ヨーロッパで人気のあった涙滴型のイヤリングの形をしているからという説と、雪の降る頃に雫のような形の花をつけるからという説があります。和名は「マツユキソウ(待雪草)」。雪の中で真っ先に花をつけ、春を待ちます。 花言葉の由来を調べてみると、「旧約聖書の創世記がもとになった」と多くのサイトで書かれていました。《禁断の実を食べてエデンを追い出されたアダムとイヴが寒さの中で震えていると、天使が舞い降りる雪をスノードロップに変えて慰めた。》この話から「希望」と「慰め」の花言葉が生まれたというのが定説になっているようです。 スノードロップはロマンチックな響きもあってか、たびたび文芸作品に登場します。サムイル・マルシャークの戯曲「森は生きている」は、大晦日にスノードロップを摘んでくるよう継母に言いつけられた心優しい少女が、森の動物や12か月の妖精たちに助けられて花を見つけ、幸せになるお話です。日本では1954年に初演され、これまでに2100回以上も上演されています。 アンデルセン=写真=の童話「夏もどき(マツユキソウ)」は、雪の積もった土の中で眠っていたマツユキソウが太陽の日差しに誘われて「夏が来た」と思って芽を出し、花を咲かせる話です。花は太陽に「あなたは一番初めの花」と迎えられて喜びますが、咲くのが早過ぎました。すぐに太陽は雲に隠れてしまいます。冷たい風が吹きすさび、小さな、か弱い花は凍え死にそうになりました。 アンデルセンの童話には「マッチ売りの少女」のように、弱者の悲しみを描いた切ない話が多いのですが、先の童話「夏もどき」ではマツユキソウが持つ強い信念を次のように書いています。 やがて被災地にも春が来て、夏が巡ります。復興には季節を何回繰り返さなければならないか分かりませんが、《夏が必ず来るにちがいない》という思いで、応援したいと思います。 ※参考図書プレミアムフラワーの花コラム
能登半島を覆う厳しい寒さや雪が復興を阻み、被災者の苦しい生活に追い打ちをかけています。
北陸の雪がすっかり解けるのはまだ先のことですが、その頃にはスノードロップ(snowdrop)が地面に顔を出していることでしょう。スノードロップの花言葉は「逆境の中の希望」と「慰め」。今年ほど春の訪れが待ち遠しく感じられる年はありません。雪の中で真っ先に咲く
まだまだ寒い早春に咲くことから、夜は花びらを閉じて昼間に吸収した温かい空気を蓄え、朝にまた開きます。花言葉の由来は旧約聖書?
しかし、旧約聖書を読んでみましたが、スノードロップのエピソードは見当たりませんでした。花言葉の由来には諸説があり、はっきりしないことが多く、定説が正しいとは限りません。とは言え、厳しい寒さの中で、うつむいて健気に咲くスノードロップを見ていると、慰められ、励まされるような気持ちになるのは確かです。文芸作品にたびたび登場
※写真は「劇団仲間」の公演「森は生きている」アンデルセン童話では
花の持つ強い信念
≪この花の中には自分でも知らない強い力がありました。それは、夏が必ずくるに違いないという、よろこばしい信念でした。≫(大畑末吉訳)
やがて花は子供の手で摘み取られ、温かい部屋に連れていかれて元気になり、最後は押し花になって立派な詩集にはさまれました。夏が必ず来る
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「旧約聖書」(訳者:中沢洽樹、発行所:中央公論新社)
「旧約聖書創成期」(訳者:関根正雄、出版社:岩波書店)
「アンデルセン童話集6」(訳者:大畑末吉、発行所:岩波書店)
「森は生きている サムイル・マルシャーク作」(訳者:湯浅芳子、発行所:岩波書店)
「みんなの趣味の園芸 NHK出版」
※参考サイト
「PDF版文語訳旧約聖書」
「スノードロップの育て方 Plantia」
「スノードロップの花言葉」
「IKEBANA Germany 花こころ」
「BOTANICA」
「劇団仲間 森は生きている」