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花コラム

花コラム 第75回:スエコザサ~最後に大切なものは

プレミアムフラワーの花コラム

第75回:スエコザサ~最後に大切なものは

2023.11.1

 “日本植物学の父”と言われる牧野富太郎(1862~1957年)を描いたNHK連続テレビ小説「らんまん」は好評裏に放送が終わりました。最終回では、主人公の万太郎(富太郎がモデル)は余命いくばくもない妻・寿恵子(富太郎の妻・寿衛がモデル)に完成したばかりの「槙野日本植物図鑑」を見せます。最後のページに収録した植物は妻の名を刻んだ新種の笹「スエコザサ」。寿恵子が「私の名前?」と涙ぐむと、万太郎は「愛しちゅう。わしら、ずっと一緒じゃ」と寿恵子を抱きしめました。
 ※写真は練馬区立牧野記念庭園の牧野富太郎像

妻の名前にちなんで命名したのは実話

 牧野富太郎の研究の集大成「牧野日本植物図鑑」初版=写真=が刊行されたのは1940年。その12年前に妻・寿衛(通称・寿衛子)は亡くなっています。実際には寿衛は完成した図鑑を見ていませんが、新種のササに妻の名前を付けたのは実話です。牧野は妻が亡くなる前年の1927年、仙台市で新種の笹を発見し、妻の通称にちなんで「スエコザサ」と命名しました。
 ※写真は国立国会図書館リサーチナビから転載

葉は反り返り、花はめったに咲かない

 スエコザサは宮城、岩手県などに自生する常緑のイネ科アズマザサ属のアズマザサの変種です。長さ10cmほどの葉の縦半分が裏側に反り返り、表面には白い毛が、裏面には短い軟毛があるのが特徴です=写真=。花はめったにしか咲かないと言われています。花の写真を探しましたが、残念ながら見つかりませんでした。

地味な笹に命名した訳は

 牧野は1500以上の植物に命名しています。その中には綺麗な花もありますが、どうして地味な笹に妻の名前を付けたのでしょうか?
 「氷点下でも生き残る力強さ、美しさが寿衛と重なったのでは」「寿衛と共にササの研究にも取り組んできた牧野が、これからも研究を続けるという決意を示したのでは」「寿衛が病床に伏した時に新種のササを発見したので、寿衛への思いを込めて命名したのでは」……。推測はいろいろありますが、牧野が妻を愛おしく思って命名したのは間違いありません。

シーボルトは日本人妻の名を

 似たような話を読んだことがあるなと思って調べてみると、ドイツ人医師で植物学者のシーボルト(1796~1866年)=肖像画(長崎歴史文化博物館所蔵)=にまつわるエピソードでした。長崎・出島のオランダ商館医として来日していたシーボルトは、アジサイに日本人妻・楠本滝の愛称「おたきさん」にちなんで「オタクサ(Otaksa)」と命名して発表しました。

花の神聖を汚したと激しく非難

 当初は「オタクサ」が何を意味するのかは、日本の植物学者にとっては謎でした。牧野は長崎にまで行って調べ、日本人妻の名前だと知って激高し、学会誌に次のように書きました。
 《シーボルトハあぢさゐノ和名ヲ私ニ変更シテ(中略)お滝ノ名ヲ之レ二用ヰテ、大ニ花ノ神聖ヲ瀆(けが)シタ》(シーボルトはアジサイの和名を個人的に変更して、お滝の名前を付け、花の神聖を大いに汚した)

自分のことを棚に上げて批判した?

 植物分類学において、植物の命名は極めて重要なことです。日本全国を巡り、新種を発見して命名することに生きがいを感じていた牧野は、シーボルトが私情をはさんで命名したことが許せなかったのでしょう。
 では、その牧野が後に同じように私情をはさんで新種の笹に妻の名前を付けたことを、どう解釈すればよいのでしょうか? 「自分のことを棚に上げて、シーボルトを批判していたのか?」と突っ込みを入れたくなります。

最後に大切にするものは

 連続テレビ小説の感動的な最終回は、牧野のつじつまが合わない言動を描いたと言えないこともありません。しかし、人は建前、理屈だけで生きているのではありません。何やかや言っても、最後は家族、愛する人を何よりも大切にするということなのでしょう。
 牧野はスエコザサと命名した時、シーボルトの気持ちが分かり、学会誌に書いたことを悔やんだかもしれません。東京都台東区にある寿衛の墓碑=写真=には、牧野が詠んだ二句が刻まれています。
 《家守りし妻の恵みやわが学び 世の中のあらん限りやスエコ笹》

※参考図書
「MAKINO 牧野富太郎誕生150周年記念出版」(著者:高知新聞社、出版者:北隆館)
「牧野富太郎 植物語り」(著者:清水洋美、発行:世界文化社)

※参考サイト
「NHK高知放送局 スエコザサとは?」
「NHK知っトク東北」
「庭木図鑑植木ペディア スエコザサ」
「歴史街道 練馬に終の棲家を構えるも」
「紫陽花のこと~シーボルトの恋情、そして怒れる牧野富太郎」
「西日本新聞 2018年5月10日 アジサイ海外に広め、学名に日本人妻の愛称」

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コラムライターのご紹介

福田徹(ふくだ とおる)

元読売新聞大阪本社編集委員。社会部記者、ドイツなどの海外特派員、読売テレビ「読売新聞ニュース」解説者、新聞を教育に活用するNIE(Newspaper in Education)学会理事などを歴任、武庫川女子大学広報室長、立命館大学講師などを勤めました。
花の紀行文を手掛けたのをきっかけに花への興味が沸き、花の名所を訪れたり、写真を撮ったりするのが趣味になりました。月ごとに旬の花を取り上げ、花にまつわる話、心安らぐ花の写真などをお届けします。

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