プレミアムフラワーの花コラム
2021.1.1
第41回:赤い実に願いを込めて
コロナに明け暮れた2020年が終わり、新年が巡ってきました。「疫病が去って穏やかな年になりますように」と願い、縁起の良い花を求めて最寄りのホームセンターの園芸売り場に立ち寄りました。
赤い実は落語に出てくる名前
入口の目立つ所に、赤い実を2、3個ずつつけた苗が置いてありました。立て札に「ヤブコウジ」=写真=と書いてあります。どこかで聞いたことのある名前だなと思って調べてみると、落語の「寿限無(じゅげむ)」に出てくる子供の長い名前の一節でした。
名前の中ほどで出てくる「やぶらこうじのやぶこうじ」(「やぶらこうじのぶらこうじ」というパターンもあります)は、このヤブコウジのことです。縁起の良い植物ということで、子供の名前の一部にしたのでしょう。
十両、百両に万両
ヤブコウジには「十両」の異名があります。隣には、十両によく似たカラタチバナが並べられていました。これは「百両」=写真左側=と呼ばれています。さらに、その隣には、同じよう赤い実をつけた「万両」=写真右側=も置いてありました。さすが金額が大きいとあって、大粒の赤い実がたわわについています。いずれも同じサクラソウ科ヤブコウジ属の常緑の低木です。
葉と実の補色のコントラスト
十両、百両、万両とくれば、「千両は?」となります。探してみると、少し離れた所に置いてありました。千両=写真=だけはサクラソウ科ではなく、センリョウ科センリョウ属です。
ちょっと見ただけでは、何両の実か見分けがつきません。しかし、よく見ると、葉の形が少しずつ違います。十両や万両は実を下向きにつけ、千両は上向きにつけています。それでも同じように見えるのは、葉の緑と実の赤の鮮やかなコントラストが共通しているからでしょうか。
ナンテンは縁起物の主役
古来、赤はお目出度い色とされ、赤い実は縁起物として重宝されています。もう一つ、赤い実で忘れてならないのはナンテン(南天)です。十両や百両などとは違うメギ科ナンテン属。夏に白い花=写真左側=をつけますが、秋口から翌春にかけてつける赤い実=写真右側=や葉の方が好んで鑑賞される植物です。
難を転ずる木
中国ではナンテンは赤い実を燭(ともしび)にみたてて「南天燭(なんてんしょく)」と呼ばれ、平安時代に日本に伝来した際に縮められて「南天」になりました。「難を転ずる」の「難転(なんてん)」の語呂合わせから、縁起の良い木とされ、厄除けやお正月飾りとして使われてきました。
ナンテンは良いこと尽くめ
江戸時代中期に編纂された類書(百科事典)『和漢三才図会』には〈(南天を)庭に植えて火災を防ぐ。大へん効験がある〉と記されています。今でもナンテンを庭の鬼門(北東)の方角に植える風習は残っています。
ナンテンの葉には防腐作用があり、赤飯=写真=やおせちにナンテンの葉が添えられることがあります。ナンテンの花言葉は、実が晩秋から初冬にかけて色づく姿にちなんで「私の愛は増すばかり」。それに「良い家庭」という花言葉もあり、良いこと尽くめです。
平凡でも穏やかな日々を
〈おもひつめては南天の実〉(種田山頭火)
感染症の重苦しい空気が流れる中で、あれこれと思い悩む時、ナンテンの赤い実を見かけると、ふと希望が湧いてくるような気がします。
〈平凡な日々こそよけれ実南天(宇恵孝子)〉
今年はコロナという難が転じて、以前の平凡でも平穏な日々が戻ってきますように!
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※参考図書
「季節を知らせる花」(文:白井明大、発行:山川出版社)、「和漢三才図会」(編集:寺島良安、発行:東洋文庫)
※参考サイト
「WARAKUWEB 2020.01.05」「歳時記 南天の実」「花言葉‐由来」「ナンテンとはーみんなの趣味の園芸」「噺家 桂伸治オフィシャルサイト」
コラムライターのご紹介
福田徹(ふくだ とおる)
元読売新聞大阪本社編集委員。社会部記者、ドイツなどの海外特派員、読売テレビ「読売新聞ニュース」解説者、新聞を教育に活用するNIE(Newspaper in Education)学会理事などを歴任、武庫川女子大学広報室長、立命館大学講師などを勤めました。
花の紀行文を手掛けたのをきっかけに花への興味が沸き、花の名所を訪れたり、写真を撮ったりするのが趣味になりました。月ごとに旬の花を取り上げ、花にまつわる話、心安らぐ花の写真などをお届けします。